2013/02/28

カモ

銃で撃たれても、頭や心臓などを撃ち抜かれない限り、大方の生き物は即死はしない(はず)。
ウグルック(アゴヒゲアザラシ)などは、頭を撃たれてもしばらく生きている場合が多い。
なのでドラマで人が撃たれて、その瞬間に倒れて死んでしまうのはどうなのか、と思ったりするが、自分が撃たれたことがないので、そこはなんとも。
時代劇で一度切られただけで、全く出血もせずにばったり倒れて絶命ってのもどうなのか、と思ったりするが、自分が切られたことがないので、そこはなんとも(お茶の間に血は合わないか)。

クジラやウグルック猟の合間に、ガンやカモの猟に出ることがある。

湖のほとりのブラインドとベンチ
小さな湖のほとりに、流木を集めて作ったガンカモ猟のためのブラインドがある。
ブラインドの陰には、棺桶が入っていた箱をバラして作った手作りのベンチがあり、我々はそのベンチに腰掛けてガンやカモが飛んで来るのを待っている。
狙うはケワタガモやカゴックと呼ぶハクガンなど。
ケワタガモの羽毛は、日本では高級羽毛布団の材料として有名だが、こちらではゴミ。

「知ってるか? カモは毎日午後3時に飛んで来るんだぜ」
「あー、わかったわかった。今日、お前はその時間、何してたんだよ」
時間は日曜日の夕方6時過ぎ。前日、遅くまで(というか朝まで)テレビを見ていた結果、朝寝をし、ダラダラしているうちにこんな時間。
もちろん、3時にカモがやって来るというのはただの言い訳で、何時だろうがやって来るときにはやって来る。
しかしこの日は、時々飛んでくるのはカモメかワタリガラスだけ。
無駄話が続く。
「いいベンチだよな」
「だろう?」
前の年、猟に出れない日が続き、やることがないので、物置の横に転がっていた廃材(元棺桶の入っていた箱など)を使って、連日ベンチを作り続けていたことがあった(結局4脚作った)。
そのうちの一つがカモ猟用となり、我々が腰掛けている。

家に帰ると家主の奥さん
「獲物は?」
「スカンクが捕れたよ」

かなりの確率で、我々は猟に出てスカンクを捕まえて来る。
アラスカのツンドラにスカンクがいるというのも驚きだか、陸だけでなく、氷の海で海獣を狙っているときでさえも、スカンクが捕れてしまうことがある。特にクジラを狙っているときのスカンク率の高さと言ったら特筆ものである。
そして目的の獲物が捕れた際には、スカンクが捕れなかったことを残念がるほどのスカンク好き。

実際にはポイントホープ周辺にスカンクはいない。
獲物が捕れたときに
「今日はノー ・スカンク(スカンク無し)だったね」
と言うのだ。なのでスカンクが捕れた、ということは、獲物無し、ということ。

たまにはカモが捕れる。
時々飛んでくる群れ(ただしこれは氷の上)
低空を飛んでくる群れを狙って散弾銃を撃つ。時々当たる。
読んで字のごとく、散弾銃は散弾(小さな粒状の大量の弾)が発射される。銃口から出た弾丸は広がりながら飛んで行き、そのうちのいくつかが獲物に当たる。
うまいこと肉や骨に当たれば鳥は落ちてくるが、小さな粒状の弾が1〜2個身体に当たる程度なので、飛べないだけでまだ生きていることが多い。

湖に落ちて浮いているものは、そのうち死んで、風が岸まで運んでくれるので、そのまま放置。
陸に落ちたものは、ツンドラの草にまぎれて見失いやすいので、素早く回収する。ただし、捕まえようと追いかけると走って逃げる。死にかけてはいても必死で逃げる。
ようやく捕まえると、頭を持ってぐるぐると胴体を振り回す。うまくすればこれで首の骨が折れて、絶命してくれるが、意外とそうもいかない。
死んだはずのカモを横に置いて、他のカモの群れを待っていると、首の折れたカモがいきなり歩き出してびっくりすることがある。
雪の上に落ちたケワタガモ
首がだらりと垂れ下がった状態で、歩いているカモの姿は、結構不気味ではある。
慌てて捕まえようと追いかけると、
「ちゃんと殺せよ!」
と、声がかかる。
「わかったよぉ。ごめんよぉ(でも、うまそう)」
と言いながら、もういちど首の骨を折る。これでほぼ絶命。

ちなみに、撃ち落としたばかりのカモは、羽毛に覆われた生きている鳥なので、素手で触るととても暖かい。

捕まえたガンやカモは、すぐに食べない場合は、ビニール袋に入れてそのまま冷凍庫へ。
ガンカモの解体、調理については、またそのうちに。

2013/02/13

ウグルック

ウグルック(アゴヒゲアザラシ)
6月、クジラの猟が一段落し、氷が大きく動き始めたころにウグルック(アゴヒゲアザラシ)の猟がはじまる。
ウグルック猟には、陸上あるいは氷上から狙う方法と、ボートから泳いでいるものを狙う方法の、主に二つの手法がある。
氷の状況や猟師の腕によることが多いため、どちらの方法が効率が良いのかはわからない。

砕けた氷が大量に漂っているときや、海岸近くに薄い氷が張り詰めていてボートを出せないときは、海岸や氷の上からウグルックを狙うが、1日粘っても小さなアザラシが時々顔を出す程度で何も捕れないことも多い(小型のアザラシはあまり捕らない)。

波があると波間にウグルックを探すのも大変で、例え見つけたとしても、揺れるボートから動き回る生き物を狙うのは至難の技なので、ボートを出すのは、海が凪いでいるときとなる。

ボートの人員配置は、ボートの大きさや人の数によって様々だか、我々が小型のボートを使う場合は、銃を持った射撃手が船首に2名、、そのすぐ後ろに雑用係1名、操船は船長が船尾に1名ということが多い。

こども船長
ウグルックを見つけると、撃ちやすく、かつ安全な方向に船長がボートを移動させる。安全な方向とは、獲物の後方に他のボートがいなく、かつ陸地がない方向のこと。
海面をすれすれを飛んで行く弾丸は、水切りの石のように水面を跳ねて跳弾となり、思わぬ距離を飛ぶことがあり、非常に危険だからだ。

獲物を銃で仕留めると、素早くボートを獲物に寄せ、獲物が沈む前に、右舷に座った射撃手が長いロープと浮きの付いた銛を打込む(銛の打ち手が右利きの場合)。
そして雑用係が浮きを投げ込むか、銛に付いたロープを握って獲物を確保する。
確保した獲物をボートに固定して曳航するために、「ウナック」という長い柄の付いたフックを使う。ウナックをウグルックの眼窩に引っ掛け、ボートに引き寄せる。
まだ生きていれば、ここでとどめの一発を頭に撃ち込む。吹き出す血と脳漿が海面を真っ赤に染める。
曳航中
ウグルックが完全に動かなくなったことを確認してから、上あごにナイフで穴を開けてロープを縛り付け、舷側に固定して海岸へと向かう。

自分の場合は、銃は撃てないし、撃てたとしても獲物に当たるとも思えないので、雑用係としてボートに乗っている。
銛のロープ捌きとウナックが主な担当で、その合間に作業に支障が無いように写真を撮っている。
作業をしつつ写真を撮っているので、いつの間にやらカメラは潮まみれ血だらけ脂だらけ。幸い頑丈なカメラなのか、今のところ大きなトラブルは発生していない。強いて言うなら、艶消しだったカメラが、妙にツヤツヤし始めたことくらいか。

時々、射撃手が一人しかいないことがあり、そんなときは、ボートのバランスの関係もあり、射撃手の横に座ることがある。
そんなときでも自分が持っているのは銃ではなくてカメラなのだが。

「あー、失敗だ」
着弾した水面に派手に水しぶきがあがる。
「ちょっと低すぎたね。スコープ調整してある?」
着弾場所やらスコープやら偉そうなことを言っているものの、自分はボートから銃を撃ったことはない。今まで銃で撃ったことがある生き物は、すぐ目の前で直立したいた、ツンドラに住むホッキョクジリスくらい。

その日は、あちこちにウグルックが現れるので、Jを射撃手として朝からボートで走り回っていたが、Jの弾丸はなぜか一発も当たらない。
自分は、Jが撃ち損じてウグルックの手前や後方に上げる水しぶきの写真を、Jの隣で撮り続けていた。船長もかなりイライラしているらしい。振り返らずとも伝わって来る。

何度目かの失敗のあとJが言う。
「シンゴ、お前撃たないか?」
深刻な声で、銃を差し出しながら言うので思わず笑ってしまった。
「いや、自分の銃を使うよ。これなら失敗することないし」
とカメラを見せる。

「昼の準備ができたらしいから、ちょっと休もう」
後ろから船長の声。
ウグルックを狙うH

海岸に戻り、昼食。
午後からは昼食のサンドイッチを持って来たHが猟に加わる。

ボートを出してすぐにウグルックの姿。すかさずHが狙いをつけて、ウグルックをしとめる。
午前中の不発は何だったのだろう、というくらいあっけなく獲物が捕れた。

別の日、初めてボートからの猟に参加したW。
この日は大型のボートを使っており、Wが簡単に獲物が取れることはないだろうと高をくくり、船長の後ろに座って、のんびりとWの様子を眺めていた。

「あそこだ!」
獲物を見つけたWが指差す方向へと船首を向ける船長。
肉眼では、それっぽいものは見えないが、スコープを使っているWにはきっと見えているのだろう。
Wの銃から銃声がした。
それと同時に、彼が撃ったウグルックが空を舞う。

「お前、何撃ったんだ?」
「ウグルックかと思ったんだけど」
「ありゃ、鳥だろう」

ウグルックと比較すると、水面を泳いでいる鳥は小さいので、普通はわかるはずなのだが、距離が離れていると時には見間違えることもある。

「あれは?」
「あれはナッチャック(アザラシ)」
「あれは?」
「あれも」

ウグルックが水面を泳いでいるときは、水面に出ている頭は大きく、小型のゴマフアザラシなど(ナッチャック)とは明らかに形が違う。
ナッチャックは、好奇心が強く、ボートを見ても逃げずに「何やってるの?」という顔をして、こちらを見つめていることもある。逆にウグルックは警戒心が非常に強く、ボートの姿を見つけるとすぐに潜ってしまう。

ナッチャックとウグルックは、慣れるまではなかなか見分けがつかないが、大きな頭を上げて悠々と泳いでいるウグルックの姿は、そのうち見分けがつくようになる。
自分の場合、ようやく慣れて来たのは、猟に出始めて7〜8年経ってから。
雑用と獲物探しで、多少は役に立っているのではないかと、思う今日この頃。

2013/02/11

葬式

敬虔なキリスト教徒が多いのポイントホープの葬式は、教会で執り行われる。
普段着のまま教会に集まった人たちが故人を偲び、祈りを捧げる。
正装をしているのは教会の関係者だけ。

ポイントホープの墓地(8月頃)
ポイントホープの墓地は町の西のツンドラの中にあり、墓地の外周はクジラの骨で囲まれている。墓地の中に、一際大きなクジラの顎の骨が立っている。クジラ猟のキャプテンだった人の墓だ。

墓地以外にも埋葬されている人がいて、ツンドラに墓標が立っているところがある。墓標の前面、人が埋葬されている部分だけ、ツンドラの他の部分より、背の高い草が生えている。

人が亡くなると葬式の準備が始まる。
町から豪華な棺が取り寄せられる。墓標となる十字架は、太い角材を使った手作り。

あるとき、居候先の親戚が亡くなり、十字架作りから手伝ったことがある。
一辺が20cmほどの太い角材を組み合わせ十字にしてから表面を紙やすりで磨く。
電動工具を使い故人の名前と簡単な模様を掘り混んで、ニスを塗って出来上がり。

「これでお前も十字架の作り方を覚えたよな」
「そうだねぇ」
「日本帰ったら、おまえのお婆さんの作ってあげたら?」
「いや、生憎うちの婆ちゃんは仏教徒なんだよ」
「大丈夫だよ、死んでるから気がつかないよ」

十字架が出来上がると、今度は墓地へ行き、シャベルで穴を掘る。
5月のポイントホープは雪が積もり、地面はまだ凍っている。
(雪が溶けた後でさえ、永久凍土地帯なので、場所によっては地面を50cmも掘ると凍っている。墓地のある付近は砂利が多いためか、暖かい季節はかなり深く掘っても凍っていない)

表面の雪をどけ、ツルハシで凍った地面を砕きながら、男たちがシャベルでひたすら穴を掘る。
凍ってはいても地面は砂利なので、あっけなく崩れてきて、せっかく掘った穴が埋まってしまうことがある。そのため、ベニア板で作った大きな型枠を穴にはめ込んで、その内側を交代で掘り続ける。深さは1.5mほど。
汗が噴き出してくる。誰かが差し入れたコーラを飲みながら、墓穴堀は続く。

「昔は、人が亡くなっても、地面が溶ける夏頃まで、墓地の横にカバーをかけて、遺体を置いておいたんだよ」
友人が言う。
以前、そんな写真を見たことがあるような気がする。

教会での式が終わると、棺と十字架は、トラックの荷台に乗せられて、墓地へと運ばれてくる。この町に霊柩車などというものはない。
ロープを使って丁寧に棺を穴に下ろすと、集まった人たちは、各々一握りの砂利を投げ入れる。

冷たい風に乗って、細かな雪が舞い続けている。
中学生くらいの女の子が、静かに賛美歌を歌い始めた。冷たい風と雪とともに、彼女の歌声が身体に染み込んで来る。
棺は次第に砂利に埋もれていく。

亡くなった彼の父親が、集まった人たちに笑顔で「ありがとう」と言っている。

なんだろう、この寂しさは…

十字架を立て、シャベルで残りの砂利を穴に入れて行く。

集まった人たちは少しずつ帰り始めた。

作業に使ったシャベルやロープをトラックに積み、我々も帰路へと着いた。

ダメだよ、まだ若いのに。
小さな子どもが何人もいるのに。
いくら病気だとは言っても。

始めてポイントホープを訪れた頃、墓地の端にあった墓標は、いつの間にか墓地の中にほどに。 そう、墓地は徐々に拡張されている。
気がつけば、その場所は、何人もの友人知人が眠る場所になってしまっている。

2013/02/07

ナルカタック

Youtubeにナルカタック(ブランケットトス、人力トランポリン)の動画をアップロードしたので、ご覧くださいませ。

ナルカタック

ナルカタックは、遠くの獲物を高いところから探すために、ブランケットで人を高くまで投げ上げていたことが由来と言われていますが、現在はお祭りで行われるのみです。
ポイントホープの場合、6月中旬に開催されるカグロック(クジラ祭り)のときのみ。基本的に誰でも飛ぶことができますが、クジラを捕ったクルーや、男の子を産んだ人が優先です。

飛び方は、ただバランスを取ってブランケットの真ん中に立っていれば、周りの人たちが投げ上げてくれます。
その際、膝を曲げると力が抜けるので全く飛びません。
上に上がった際、思わず下を見てしまうのですが、そうすると身体が前のめりになり、真っ直ぐに着地できません。
頂点では一瞬の無重力状態。そこから下を見下ろすと、遥か下の方に、小さな円形のブランケットが見えます。落下が始まると、チビリそうなくらい怖いですが、何とも言えない気持ち良さです。
上手な人は、宙返りをしたり、ポーズをとったり。自分にはそんな余裕はありません。

飛んでいるおばちゃん、アアナが何か投げているのは、お祝いの品。彼女はこの年、男の子孫が産まれたので、そのお祝い。
過去1年に、男の子が生まれた女性、男の孫が産まれた女性は、ナルカタックの上から、大量のキャンディー、裁縫用具、高価な毛皮など様々なものを投げます。
投げられたお祝いの品を拾えるのは、60歳以上の女性のみ。
 ナルカタックの周りでは、普段、杖をついてよぼよぼ歩いているような女性が、毛皮を目指して、ものすごい勢いで走り回る姿を見ることができます。