2013/10/08

ネズミ

ポイントホープでは、8月も下旬を過ぎると、もうすっかり秋である。
その頃になると、川を遡るマス類の漁のために、内陸のククピァック川へ出かける人が増えてくる。
ククピァック川での漁は、秋から冬、氷が張り込めても行われている。

ククピァック川で捕れる主な魚のひとつに、グレイリング(カワヒメマス)がいる。
日本ではあまりなじみがないが、一部の管理釣り場(釣り堀)で釣ることが可能。また、一部の川や湖で「特定外来魚」として、厄介者扱いされている魚でもある。
背びれが非常に大きく、他のマス類とはすぐに区別が付く。マス類の中ではもっとも美しい魚と言われている(らしい)。
ポイントホープでは、主に凍らせたものをナイフでぶつ切りにしてから皮を剥ぎ、適当な大きさに切って、シールオイルを付けて食べる(コークと言う)。肉も美味だが、胃袋も貝のような歯ごたえがあって美味しい(他のマス類は胃袋を食べる人は少ないと思われる)。

今年もポイントホープにグレイリングの季節がやってきた。
フェイスブックに大漁のグレイリングの写真を載せているポイントホープの友人が何人もいた。
そのフェイスブックに上げられたいくつかの写真の中に、妙な写真が1枚。
ダンボールの上で腹部を開かれたグレイリングの横に、びしょ濡れの毛玉のようなものが二つ。なんだろう? と思ってコメントを読んでみると
「グレイリングの腹の中から、ネズミが2匹出て来た。こんなのは始めてだ」
と。
北海道のイトウなどは、かなり獰猛で陸上に住むネズミなどを食べると聞いたことはあるが、グレイリングがネズミを食べるとは聞いたことがない。

そんな矢先、ポイントホープの居候先の主、Hから電話がかかって来た。
「なあ、知ってるか? Jが捕ったグレイリングの腹からネズミが出て来たんだよ」
「ああ、知ってるよ。フェイスブックに写真が出てたよ」
「オレはもう、金輪際グレイリングは食わないからね」
Hは普段、魚を凍らせたも「コーク」はほとんど食べないのだが、唯一食べるのがグレイリングだった。

約2週間後、再びHからの電話。
「知ってるか? グレイリングの腹からネズミが出て来た話」
「うん、この間してくれたよね」
「父ちゃんがグレイリングくれるって言ったんだけど、オレは食わないからいらないって言ったんだよ」
「もう、そっちはかなり寒いんだろう? 川も凍ってるんじゃないの?」
「そうだね、そろそろ凍ってるかもしれないね。でも今日は暖かかったから、少し融けたかもしれないけど」
ちなみに、Hはみんなが魚をくれるので、わざわざ川まで魚を捕りに行くことはない。
「だとしたら、もう川辺にネズミはいないんじゃない? グレイリングの腹からネズミは出て来ないと思うよ」
「いや、もう食わない。絶対に食わない」

以前にも書いたが、彼はネズミが大嫌いである。怖いらしい。
ちなみに虫も嫌いであることも以前に書いた。
夏、レストランから買って来たハンバーガーの包みからハエが飛び出して来たことがあった。
「オレは二度とレストランのものは食わない」
と言っていたのに、2週間もしたら再びレストランのハンバーガーを食っていた。
なので、ほとぼりが冷めた頃には、再びグレイリングを食べているのではないかと思うのである。