2017/04/13

「水産振興」発行されました。

1年ほど前、東京水産振興会の方から「ポイントホープのことについて自由に書いていいから、いかが?」と、お話をいただき、あれこれ書いていると際限がなくなりそうなので、クジラ猟に絞って、書き始めたのがアラスカにいる頃で、その後出張中に推敲を重ね、さあできたと思ったら、文字数が全然足りなくて、さらに書き足して原稿ができたのが年末。その後、校正を何度も繰り返し、4月の頭にようやく形となりました。

東京水産振興会の栗原さんには、大変お世話になりました。
また、栗原さんに僕のことを紹介してくださった編集者の遠藤成さんにも、大変感謝しております。

 アラスカ、ポイントホープへ通うようになったきっかけ、クジラの捕り方、切り分け方、食べ方などなど、みなさんによく聞かれることは、ほぼ網羅させたつもり。
残念ながら非売品ですが、PDFが公開されるそうなので、読んでみたい方は、そちらをご覧になってみてください(4/13現在、未公開 公開されました)。

水産振興

ところでこの「水産振興」、どこかで聞いたことある名前だし、表紙の色合いも見覚えがあるな、と思っていたら、以前勤めていた会社の本棚に、バックナンバーがずらっと並んでいたのでした(水産関係の業務をたくさんやっていたので)。
当時はまさか自分が書くことになるとは考えてもみなかったので、手にも取りませんでしたが。

2017/04/01

新聞連載始めました(ウソですよ)

この間年が明けたと思ったら、あっという間に4月ですね。

この冬、奥日光へクロスカントリースキーへ出かけた帰りの電車、たまたま隣に座ったのは栃木県の地方紙「下毛新聞」の新聞記者の方。
世間話をするうちに、こちらのアラスカでの生活に興味を持っていただき、3月27日(月)朝刊から、週に1回、毎月曜日に連載をさせてもらうこととなりました。 

ご存知の方も多いとは思いますが、僕の出身は群馬県です。地元群馬の地方紙「上毛新聞」で連載を持ちたかった、というのが本音ですが、奥日光は大好きで、今まで通算でも50回以上は通っている場所。ならばその大好きな奥日光のある栃木県の新聞に貢献しても悪くはないな、ということで今回の連載となりました。

連載開始にあたり、中禅寺湖畔に庵を構える南流の書家であり、下毛新聞の題字も書いておられる南家蘆玖斎先生に題字をお願いすることとなりました。
 
題字のイメージを掴んでもらうため、先生にアラスカでの話をしたところ、こんなタイトルをつけられた挙句、妙におどろおどろしい題字にされてしまいましたが、書いていることは「紀行」とは言い難いので、これで良いのかなと。ちなみに「ツンドラ気候」にもかけているそうです。
ちなみに南家先生は、筆だけではなく、様々な素材を用いて文字を書くことを極めている方で、今回は「割り箸」を使って書かれたそうです。

第1回の掲載前にお知らせすべきだったのですが、年度末でバタバタしていて、本日になってしまいました。
とりあえず第1回のコピー(というか写真ですね)を載せておきます。
第2回目の「ツンドラ奇行」はカリブー猟について書いていますので、お楽しみに。
下毛新聞の購読については、以下をご参照ください。

以上の記事は4月1日に書かれた、エイプリルフールの記事でございます。
「下毛新聞」という新聞はございません。上記サイトの「underhair.com」というサイトも偽サイトでございます。

2017/01/01

本年もよろしくお願いいたします。

2017年、新しい年が始まりました。
2015、2016年の2年間で、春の猟期の氷の薄さ、異様な暖かさ、季節進行の早さが際立ってきています。年が明けてもポイントホープ周辺の北極海はまともに結氷していない状態だと、果たして今年の猟期はどうなるのだろうかと、不安だらけになります。
ただ、どんな状態であれ、そこに人は生きているし、自分も生きているし、何かしらやるべきことはあるはず。
 面白くない世の中をいかに面白く乗り切っていくか。そんなことを考える年の初めでございます。
相変わらずの遅々たる更新の当ブログですが、今年もよろしくお願い致します。

2016/12/11

魚の捕り方

Kuvruq(クブラック)、すなわち網を使って魚を取る方法について。

海岸に置いた刺し網
ポイントホープの海での網を使った漁は、海岸に刺網(さしあみ)を仕掛け、海岸に沿って移動するサケやマスを捕獲する漁である。

この漁は海から完全に氷の無くなった6月下旬から8月にかけて行われており、6月頃、漁の初期は北上するサケマス、8月は南下する太ったマス(ホッキョクイワナ)が捕れる。
使用する刺網は、目の大きさ15センチ程度、長さ20メートルほどの網。
 かつては自分で編んでいたそうだが、現在は市販の網を使用している。

網の設置方法
波打ち際近くに、重りを海側、浮きを陸側にして網を広げる(写真参照)。

重り。これはコンクリート製
海中に沈めるアンカー代わりの重りを用意する。
写真のものはコンクリート製だが、土嚢袋や麻袋に海岸の小石を詰めたものも使っている。
この重りには、シャックル(U字形の連結金具)が縛り付けてあり、網の長さの3倍程度のロープが通してある。このロープは、端同士が結んであり、大きな輪となっている。


網を沖へ送る棒

重りを沖へと送るための棒。
2X4材を釘やネジで繋いだもので、長さはロープより少し短い程度。
先端部には重りを引っ掛ける切り欠きとと、ブイが付いている。
このブイは重りを沖に送る際、重りが沈んでしまわないようにするためのもので、ポリタンクやポリエチレンの樽など、浮力のあるものであれば何でも使用する。

ちなみにこの棒、普段は海岸に置きっぱなしで、海岸のあちこちに置いてある(それぞれの棒に所有者がある)。
初めてこれを見たときは、これが一体何なのか、全く想像がつかなかった。


切り欠きに重りを引っ掛ける
先端の切り欠きに重りを引っ掛け、重りに付いたロープを棒に沿って引き延ばす。
 1人は水際近くに、足をロープの輪の中に入れて立つ。これはロープだけが海の中へ行ってしまわないようにしておくため。
もう1人は棒の陸側の端に立つ。





棒とともに重りを沖へと送り出す。

準備が整ったら、陸側の人間が棒を持って海に向かって押す。
 この時、ある程度の速度で、さらにその速度を保ち続けないと、重りが途中で海底に落下してしまう。
海側の人間は、棒が海岸から垂直に沖に向かうように手を添えて調整する。

陸の人間が水際までたどり着いたなら、そこで棒を少し引くと、棒から重りは落ち、海底へと落下する。
棒はこれで用済みとなるので、陸上へ引き上げる。

ロープの末端を網に結ぶ
ロープの大半は重りとともに水の中。ロープの端の結び目が手元近くにある。
この結び目を、網の手前側の端に結び付ける。 向こう側の端は海岸に杭を打ち込んで、そこに結び付ける。







網は完全に水の中へ。
左のロープを引くと、網が上がってくる。
ロープの片方を引けば、網の手間側の端は沖の重りへと引かれていく。
網には上部に浮き、下部に重りがあるため、水中で垂直に立ち上がる。

 魚がやってくるのを待つ。
 魚がかかると浮きがビクビクと動く。
 群れがやって来たなら、その群れが網に向かうように大量の小石を投げ込む。

網に魚が掛かったなら、片方のロープを引き、網を海岸へと引き上げ、魚を回収。
その後、再び網を海へと入れ、漁を続ける。

6月下旬、その年初めての漁では、マスが2尾。
サケマスのほか、海底にいる全長20センチほどのカレイや、ニシンが網に引っかかって捕れることもある。ニシンは食用になる。
ある時、このカレイを持ち帰り、煮付けを作ったことがあるが、気持ち悪がって誰も食べようとしなかった。
このカレイ、体表に硬い石のような鱗があり、 皮を剥ごうとして、指先が切り傷だらけになってしまった。


2016/10/15

カヤックジャパン

Qajaq JPN(カヤックジャパン)という団体があります。
  こちらQajaq JPNのサイト。

グリーンランドスタイルのカヤックを学んで普及させよう、という団体で、本家グリーンランドのQaannat Kattuffiat(カヤックによる狩猟文化の維持を目的とした組織)からも公認を受けています。

ここでいうカヤックは、グリーンランドで狩猟に使われている、木のフレームにアザラシの皮(現在は帆布などを使用)を張った伝統的なスキンカヤックで、日本で普及しているシーカヤックと比べると、非常に細くて薄い印象です。
そしてもう一つ特徴的なのは、幅が10センチにも満たない細いパドル。漕いでみるまではこんなものが推力になるのかと思うけれど、一度漕いで見れば、風に強く、丁寧に漕げばほとんど音を立てずに水を掴むことができる、狩猟に適したパドルだということがわかります。

自分でカヤックを作る人もいれば、これを模した既成の樹脂製のカヤックを使っている人もいますが、シーカヤックなどに比べると、非常に不安定です。このカヤックを使って、いわゆる「エスキモーロール」などの技を学んでいこう、という人たちが集まっています。
実は、自分もいつの間にやらこの団体の会員になっていて、時々ロールの練習をしております。そしてカヤックは持っていないけれど、パドルだけは持っているのです。





8月頃、この団体の偉いさんから、アラスカの話を何か書いて欲しい、と言われたので、とりあえず、クジラ猟の話を、主にお笑いを中心に書いて原稿を渡しました。
編集が終わって、カヤックジャパンのサイトにアップした、とのことなので見てみましたところ、カッコよくまとめてもらっているじゃありませんか。

こちら

お笑いなのに、なんだか「凄い話」 風になってます。
よろしかったらご覧ください。

それとカヤックに興味ある方、連絡くだされば、カヤックジャパンへとおつなぎしますよ。

2016/09/04

シールオイルの作り方

ウグルック(アゴヒゲザラシ)を捕まえた際、必ず作るのが「オゴロック」と呼ぶシールオイル。
実際、シールオイルは、ナッチャック(ワモンアザラシ)で作ることも多いけれど、ここではウグルックの脂肪を使ったシールオイルの作り方を。

 ※ウグルックの解体方法についてはまた別途

段ボールの上で数日間干す。
ウグルックから得られた布団状の脂肪のかたまり。
これを肉の面(内側)を表にして2〜3日、日光に干す。日差しが強ければ、1日でも表面が乾いて薄い茶色に変色するので、そうなると日干しは完了。
日に干すことで、食感、味わいが良くなるのだが、急ぎの場合には、干さなくても問題はない。
なお、干す際に、霧や雨で脂肪が濡れてしまうと傷んでしまうので、濡らさないように気をつける。
 干す前に脂肪についた肉を綺麗に落としておくことが望ましいが、処理する際にまた綺麗にするので、それほど神経質になる必要はない。

端の部分、皮側の凹凸の激しい部分を切り取る。
日干しした脂肪を20cm角程度に切り、汚れた部分、乾燥しすぎた部分などを取り除く。
この作業をしっかりしないと、オゴロックに濁りが生じたり、味が落ちたりする。
日に干した部分に肉が残っていれば、それは切り取る。横の乾燥した部分も切り取る。
明らかに乾き過ぎ、硬くなっている部分も同様。

クリーニング後の脂肪のかたまり。
少々失敗して脂肪が薄くなりすぎている。
この作業にはウル(女性用扇型のナイフ)を使うと非常に作業がしやすいが、脂身相手なので、すぐに切れ味が落ちるため、タッチアップ(他のウルなど固いもので刃をこすり簡易的に研ぐ)したり、やすりやシャープナーで刃を研ぎながらの作業となる。

バケツに入れた脂肪
 クリーニングが済んだ脂肪のかたまりは、幅2〜3cm、長さ5〜10cm程度の短冊状に切り、プラスチックのバケツなどに入れていく。

バケツに入れた脂肪は、室内に入れて室温に置いておく。この際、蓋をして密閉してはいけない。

1日最低1回以上、手でよくかき混ぜる。かき混ぜることで液化が早く進むこともあるようである。
また、室温が低いとなかなか液化が始まらない場合もある。
液化が始まり、短冊状の脂肪のかたまりは次第に縮んでいく。それに伴い、容器の中は金色の液体で満たされいく。

ある程度液化が進んだ段階(固形物がおおよそ半分になった程度)で完成。
すぐに使用しない場合は、そのまま冷凍庫に保存する。

すっかり縮んでしまった短冊状の脂肪は「オゴロガック」と呼び、食用となる。

これにウグルックの干物を漬け込んだものが「ミックー(ミプクー)」である。
ミックーは、ニンジンとともに食べることが多い。
これはニンジンに含まれる脂溶性のビタミンAを摂取するために合理的な方法だと思われる。

かつて電気冷蔵庫のなかった時代、シールオイルは万能の保存料として使われていたそうで、卵(ウミガラスの卵など)シールオイルに漬けて冷暗所に保存しておくと、長期保存が可能だったそうである。

2016/05/06

水中マイクを使ったクジラの歌


2016年も4月26日よりポイントホープ入りしております。
翌日から、かなり風が強いものの、ほぼ毎日のようにクジラの猟に出ております。

さて。
日本にいる間に、突然思い立って作った水中マイク(ハイドロフォン)。
上が本体。下はアンプ。
材料は
・アクリルの端材(端材なのでただ、厚さ5mm、3mm)
・圧電素子(30円くらい)
・Oリング(2個で300円くらい)
・シールドケーブル3m(100円/1mくらい)
・マイク端子(60円くらい)。
ポリカーボネイトのネジ(全部で300円くらい)
※ネジは当初ステンレスのネジを使ったけれど、触るとノイズを拾うので、に変更(効果は不明)。

アクリル板を切り出す際、ものぐさして八角形にしてしまったため、ネジの数が多くなってしまったけれど、他の製作例を見ると、六角形で良さそう。

ケーブル取出し口の防水には「プラリペア」、エポキシ系接着剤、水中用エポキシパテ。いずれも在庫品。ただし、エポキシ系接着剤以外は、新たに買おうとすると結構高め。
以前、流水中で使う水中ビデオカメラのケーブル取出し口の防水で、ひどく苦労したことがあったので、ケーブル取出し部の防水には念を入れたが、静水中の浅い場所で使う分にはそれほど神経質にならなくても良さそう。

単体でも音は拾えたけれど、音がちょっと小さめだったので、秋葉原でマイクアンプのキット(箱など含めて1500円ほど)を買ってきて、ボタン電池とともに、小さな箱に無理やり押し込む。

材料費だけだと、アンプも含めて、3000円くらいで作れたのかもしれない。ただ、いろいろ試行錯誤しているので、無駄に金はかかっている。
製作時間も、思考錯誤しつつ組んではバラししていたので、おそらく延べで数日。

製作される方は、例えばこんなサイトを参考に。
Freeth

自宅テストでは、台所、風呂場で水滴の音を録音する程度。その際、ノイズを拾いまくるので、ネジをプラスチックに変えたり、圧電素子の後ろにシールド代わりのアルミテープを貼ってみたり、いろいろやってみるも、ほとんど効果はなかった。

当初、iPhoneで録画録音しようと思っていて、マイクの接続に一苦労し、インピーダンスがどうのこうのの接続用のケーブルを作ったりしたものの、実際現場に出てみれば、常に持ち歩いている一眼レフにつなげるのが一番手っ取り早いと判明。

猟に出た当初は風が強く、試しに水中にマイクを水に入れてみるも、水が氷に当たる音を拾うばかり。
風が弱まり、クジラを追ってボートが出払ったキャンプでぼんやりしていると、近くで別のクジラがブリーチングを始めた。
慌てて水中マイクを引っ張り出して、水に入れて、ぶら下げていた一眼レフカメラでビデオ撮影。
イヤホンを忘れたので、聞きながらの録音はできないが、録画後再生してみると、クジラが上げる水しぶきの音まで録音できていた。
以外と高性能なものができたらしい。
命名「灰泥素子」さん。
ブリーチング

後日、ベルーガの大きな群れが通過し続ける際にマイクを突っ込んだものがこれ。ものすごく賑やか。
ベルーガの群れ 

日が沈んだ後、朝方の静かな海にマイクを入れてみたもの。クジラの姿は見えないけれど、声は聞こえてくる。そして船外機から垂れる水の音も記録されている。
朝の海

日本でも、クジラ、イルカのいる海域で使えるかもしれません。是非、お試しを。