普段着のまま教会に集まった人たちが故人を偲び、祈りを捧げる。
正装をしているのは教会の関係者だけ。
ポイントホープの墓地(8月頃) |
墓地以外にも埋葬されている人がいて、ツンドラに墓標が立っているところがある。墓標の前面、人が埋葬されている部分だけ、ツンドラの他の部分より、背の高い草が生えている。
人が亡くなると葬式の準備が始まる。
町から豪華な棺が取り寄せられる。墓標となる十字架は、太い角材を使った手作り。
あるとき、居候先の親戚が亡くなり、十字架作りから手伝ったことがある。
一辺が20cmほどの太い角材を組み合わせ十字にしてから表面を紙やすりで磨く。
電動工具を使い故人の名前と簡単な模様を掘り混んで、ニスを塗って出来上がり。
「これでお前も十字架の作り方を覚えたよな」
「そうだねぇ」
「日本帰ったら、おまえのお婆さんの作ってあげたら?」
「いや、生憎うちの婆ちゃんは仏教徒なんだよ」
「大丈夫だよ、死んでるから気がつかないよ」
十字架が出来上がると、今度は墓地へ行き、シャベルで穴を掘る。
5月のポイントホープは雪が積もり、地面はまだ凍っている。
(雪が溶けた後でさえ、永久凍土地帯なので、場所によっては地面を50cmも掘ると凍っている。墓地のある付近は砂利が多いためか、暖かい季節はかなり深く掘っても凍っていない)
表面の雪をどけ、ツルハシで凍った地面を砕きながら、男たちがシャベルでひたすら穴を掘る。
凍ってはいても地面は砂利なので、あっけなく崩れてきて、せっかく掘った穴が埋まってしまうことがある。そのため、ベニア板で作った大きな型枠を穴にはめ込んで、その内側を交代で掘り続ける。深さは1.5mほど。
汗が噴き出してくる。誰かが差し入れたコーラを飲みながら、墓穴堀は続く。
「昔は、人が亡くなっても、地面が溶ける夏頃まで、墓地の横にカバーをかけて、遺体を置いておいたんだよ」
友人が言う。
以前、そんな写真を見たことがあるような気がする。
教会での式が終わると、棺と十字架は、トラックの荷台に乗せられて、墓地へと運ばれてくる。この町に霊柩車などというものはない。
ロープを使って丁寧に棺を穴に下ろすと、集まった人たちは、各々一握りの砂利を投げ入れる。
冷たい風に乗って、細かな雪が舞い続けている。
中学生くらいの女の子が、静かに賛美歌を歌い始めた。冷たい風と雪とともに、彼女の歌声が身体に染み込んで来る。
棺は次第に砂利に埋もれていく。
亡くなった彼の父親が、集まった人たちに笑顔で「ありがとう」と言っている。
なんだろう、この寂しさは…
十字架を立て、シャベルで残りの砂利を穴に入れて行く。
集まった人たちは少しずつ帰り始めた。
作業に使ったシャベルやロープをトラックに積み、我々も帰路へと着いた。
ダメだよ、まだ若いのに。
小さな子どもが何人もいるのに。
いくら病気だとは言っても。
始めてポイントホープを訪れた頃、墓地の端にあった墓標は、いつの間にか墓地の中にほどに。 そう、墓地は徐々に拡張されている。
気がつけば、その場所は、何人もの友人知人が眠る場所になってしまっている。
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