2014/05/02

寿司

ポイントホープで一番古い友人の一人、Eが病気治療のためアンカレジに滞在中とのことで、日本からポイントホープへ向かう途中、彼女が泊まっているホテルを訪ねた(退院してホテルから通院している)。
ドアをノックすると、まるで子どものように泣きながら現れた彼女。
いつも気丈で元気な彼女がおいおい泣いている姿を見ていると、とても不安になってしまう。
 「ねえ、泣かないでよ」
ハグしたまま泣き続けるE。再会できた事が、よほど嬉しかったのか。
Eの巨体をハグしながら、体型がほぼ病気になる前のままだったので、ちょっとだけ安心した。
そして、しばらくして落ち着いたのか、いつもの笑顔が戻って来た。

病気なので何を食べていいのか、食べてはいけないのか分からなかったので、お見舞いに食べ物は持って来なかったが、聞けば特に食事制限はないとのこと。冷蔵庫の中には、友人、親戚が持って来てくれたマクタックやらカリブーの肉がたくさん入っていた。
そしてあまり体重を落としてしまうと病気に対抗できなくなるので、それほど痩せていないらしい。薬の影響で髪の毛が亡くなる人もいるが、彼女の場合はほぼ以前のまま。

次第に口が回り始め、自分の病気の話も、笑い飛ばしそうな勢いになって来た。やはりEはこうでなくちゃ。

傍らに常にぶら下げているバッグから胸にパイプが伸びていて、そこから体内の患部へ薬剤が常に注入されているのだそう。
座るたびに傍らに置き、立ち上がる際に肩に下げる。
「ウェストバッグのように、腰に巻けないの?」
「あ、それは考えても見なかった」
しかし太い彼女の腰はどこにあるのかよくわからない。。。

自分の携帯電話の中の写真を見せていると、日本を出る直前に撮った寿司の写真があった。
「あんた、これ、生の魚食べてるんでしょ?」
「寿司と言ったら生の魚だけど」
「すごいもん食べるのねえ」
「エスキモーって生のもの食わなかったっけ? 生の魚とか生の肉とか」
「何言っているの、私は生もの食わないわよ」
「はい?」
「凍らせて食べているの。あれは生じゃないの」

そう。エスキモーの人たちが食べている「凍らせた」肉や魚は、「生」ではないのだ。
熟成させた食べ物も「生」ではない。
「生」とは、凍らせず、熟成させていない動物から、直接切り取ったものの事と考えればよいのか。
本田勝一氏の著書にあったように、アザラシなどを解体しながら食べる場合は生なのだろう。そう言う意味ではポイントホープの人たちは、「生」のものは、一切食べない。

内緒なのだが、カリブーの袋角(成長中の角)の「生」の先端部分や「生」の肝臓は、捕れたてをその場で食うととても美味。
ただし、どんな病気が待ち受けているかは知らない(今も元気だから、たぶん大丈夫。たぶん)。

それはともかく、早く元気になってもらって、ポイントホープでEの明るく大きな笑い声を聞きたい。

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