2015/12/05

冒険フォーラム、交流ひろば

交流ひろばでの展示
11月22日、明治大学で行われた兵庫県豊岡市(植村冒険館)主催の冒険フォーラム。

植村直己が追い続けた世界 
      なぜ、極地なのか

 その際、別会場で行われていた交流広場での展示状況。

大きく伸ばした写真とともにウミアックの模型、マクラックなどを展示した。
午前、午後各1回、地平線会議の丸山純さんに作っていただいたスライドを使ってのトークショー。
午前は画面のでスライドショーができなくなってしまったが、丸山さんの質問に答える形で、展示写真などの説明。
午後はスライドを見ながら、やはり丸山さんの質問に答える形で話をする。20分と短い時間だったが、丸山さんの司会のおかげで、無事に時間内で終了した。
左は風書の月風かおりさんの展示

午後の部は、ほぼ満席で知った顔もちらほら。
わざわざ展示を見に来てくれた人、久しぶりに会う友人。こういう機会でもないと、古い友人に会えないというのもどうなのか、という気がしないでもないが、会えるだけでも有り難いと思う。

ディスプレイをはさんだ左側では、風書家の月風かおりさんの、南極で行った風書のパフォーマンス似ついての展示。
見た目は細く華奢な感じの方なのに、 バイクであちこち走り回り、世界中を旅している。
月風かおりさんのトークショー
南極の雪の上で、着物と足袋でのパフォーマンス。下世話な話だが、寒くないのだろうか、というのが最初の疑問。
ちょっと考えればわかることで、パフォーマンスをやっている状況では、寒さなど感じないくらいの精神状態ではないのだろうか。

途中、冒険フォーラムのメイン会場へ。
大場満郎さんを始めとする極地に関わってきた人たちのパネルディスカッション。
シオラパルクに滞在中の山崎さんの展示
有益でとても面白い話なのだが、いかんせん4名のパネリストにたくさんの写真とたくさんの話題と限られた時間。どこか物足りない感じのまま、終了時間となってしまった。

交流ひろばには、犬ぞりで北極圏を旅し続けている、山崎哲秀さんの写真と、グリーンランドで収集した銛先などが展示されている。
彼は今、シオラパルク滞在中のため、本人不在の展示。
エスキモーの剣玉と知恵の輪。剣玉は偶然一度だけ、上手く入った。信じられない。
知恵の輪は、しばらくやっていたけれど、結局解けなかった。

終了後、交流会という名の飲み会。
植村直己さんの出身地、兵庫県豊岡市からのおいしい料理が隣で行われている冒険フォーラム懇親会会場からたくさん届けられる。非常に腹が減っていたので、有り難くいただく。

そういえばと、懇親会会場を覗きにいくと、そろそろお開きのような状態。大場さんに挨拶を、と思ったら既に山形へ帰ってしまったとのこと。
振り返るとパネルディスカッションのゲストとして来場していた市毛良枝さんが、司会者の江本嘉伸さんとともに立っている。市毛さんに挨拶をして、とりあえず自己紹介。
市毛さんにお会いできたことで、今回の目的は果たすことができたのだった。

ところで、今回のフォーラムのお題「なぜ、極地なのか」
自分が「極地」に関わるようになったきっかけは中学生の頃読んだ植村直己の著書「北極圏1万2000キロ」であり「極北に駆ける」だった。そして気が付けば20年以上「極地」に通い続けている。自分にとっての極地、すなわち北極は、大好きな人たちがいて、大好きな風景がある、大切な場所だ。だから「極地」なのだ。 

今回は、自分の展示があるにもかかわらず、仕事の関係で全く手伝うことができず、ほぼすべてを地平線会議のスタッフの皆さん、とくに丸山さんにお願いしてしまった。
地平線会議の江本さん、丸山さん、スタッフの皆さん、本当にありがとうございます。

2015/11/20

転覆事故

2008年5月。
その年のクジラ猟のためにポイントホープへ入って数日後のこと。
その日は何度もクジラが沖合に現れ、その度にウミアックでクジラを追っていた。
ウミアックに乗れる人数は8名。我々のクルーは10名ほどいたため、自分は氷の上で双眼鏡を覗いてウミアックとクジラの行方を追い続けていた。
クジラは氷のほうに近づいて来て、どうやら氷の下へ逃げ込んだようだ。
数艘のウミアックが氷の端、キャンプのすぐ横へ戻ってきて、沖を向いて並び、再びクジラが浮上をするのを待つこととなった。

我々のキャンプのすぐ横にウミアックが集まってきたので、カメラをぶら下げてそばまで写真を撮りに行く。
目の前にはクーヌックのウミアック。東のほう、ナシュクパックのウミアックの向こうに我々のウミアックも見える。
写真を撮りつつ、クジラが浮き上がるのを待つ。

突然、「ドン」という低い音とともに、足下に氷の振動を感じた。
「なんだ? 地震か? え? 氷の上だぞ?」
そう思っていると、いきなりクーヌックのウミアックが水面から持ち上がった。
何事だろう。とっさのことで全く何が起きているのかわからなかった。
目の前のウミアックは転覆し、乗っていた男たちが海に投げ出される。

助けなくちゃ、そう思うものの、身体が動かない。どうしたらいいんだろう? そう思いながら手元を見ると、カメラを握りしめている。写真なんて撮っている場合ではないが、とりあえず写真を撮ろう。
何度かシャッターを切る(結局2枚しか撮っていなかった)。
助けなくちゃ、もう一度そう思ったものの、相手は水の中。カメラを置いて、走り出そうとしたが、水温0度の水の中の人たちを簡単に助けることはできない。
何もできずに立ちすくんでいると、 すぐ隣にいたレーンのウミアックが漕ぎより、男たちをウミアックに引き上げはじめている。

我々のウミアックも近づいてきて、キャプテンがこちらに向かって何か叫んでいるが、遠いのと興奮で何を言っているのか聞き取れない。
あとで聞いたところ、メインの氷にクラックが入ったと思い、後ろへ下がれと叫んでいたとのこと。

事故現場から一番近いキャンプは我々のキャンプ。男たちはそこへ引き上げられるようだ。
海に落ちた男たちを暖めるため、ソリの上に置いてあった大型のテント「アークティックオーブン」を組み立て、ガスコンロを入れて、内部を暖める。
引き上げられた男たちの濡れたジャケットや服を脱がして、テントの中へと押し込む。
男たちは信じられないくらい大きく震えていて、会話もままならないほどだった。
しばらくすると、どこからとも無く着替えが届き、身体が暖まった男たちを町へと送り返した。

実際何が起きていたのか。
水面下にあった大きな氷の塊が、突然クーヌックのウミアックの真下から浮き上がり、その氷に乗り上げたウミアックが転覆してしまったのだった。
他のウミアックでは、クジラが再浮上したものとおもい、一斉にパドルを漕ぎ始めたそうだ。

上段:転覆数分前。 下段:転覆時。
幸いなことに怪我人は無く、ウミアックから落ちた銛などの道具類もほとんど回収された。

海に落ちた男たちが 町に戻って数時間。町からソリを引いたスノーモービルがやってきた。
「事故に合った男たちは? 暖かい毛布と着替えを持ってきたんだが?」
サーチ・アンド・レスキュー(ボランティアの救難隊)がやってきた。
「とっくの昔に町に帰ったよ」
一体、どんな連絡網になっていたのだろう?

2015/09/27

地平線会議終了

9月25日の地平線会議にいらして下さった皆様、本当にありがとうございました。
色々準備を進めて下さった地平線会議の関係者の皆様にも、改めてお礼申し上げます。

開始早々、丸山さんが僕のことを紹介して下さっている間に、どんどん緊張感が高まり、一体どうなるんだろうかと思っておりましたが、話しを始めればそれほどの緊張もなく、ほぼ思い通りの話ができたのではないかと、思っております。
ただ、あまりにマニアックな世界なので、よくわからなかったこと、全くわからなかったことなどあると思います。
疑問点、意見など、こちらのブログのコメント欄に書き込むなり(今回はきちんとコメントを付けるようにします)、メールなりFacebookなりで、質問してくださって結構です。

当日の会場、気が付けばほぼ満席に近いような感じで、あまりの人の多さにびっくりしておりました。
会場では、古い友人知人に再会できたり、共通の友人がいる人に会えたり、友人同士がどこかで繋がっていたり、繋いでみたり、改めて人と人の繫がりは面白いなと思うのでした。

クジラ袋はほぼ完売。手拭、DVDも多くの方々に買っていただきました。有り難いことです。
また、かなり高価なウルも買って下さる方がおり、感謝しております。

今後、こういった人前で話す機会があれば、またブログ等でお知らせしますので、皆様、ぜひおいで下さいませ。

当日もちょっとお話しした通り、クジラ猟のみならず、アゴヒゲアザラシ猟、カリブー猟、ウミガラスの卵採りなどもやっておりますし、それらの処理方法も多少は覚えておりますので、ネタはそれなりにございます。
人が集められそうなので、その人たちの前で何か変わった話をして欲しいという、ご要望もお待ちしております。時間の都合さえ付けば、どこへでも参上いたします。
ただし、僕の話に人生訓めいたこと、教訓のようなものを期待しないでください。このブログを読んでいただけばわかる通り、バカ話が非常に多いですし、当の本人も結構なバカなのです。

追伸
クジラ袋は増産すべく、資材を購入して参りましたので、やっぱり欲しいという方はご連絡ください。手拭はまだまだ余っております。
ウルもぼちぼち作っておりますので、そろそろ予約を開始したいと思います。
いずれの商品も、手作り故、むらがあったり、大きさが異なったりしておりますので、そのあたり、ご容赦ください。

2015/09/15

腸の処理方法

かつて、エスキモーが全ての素材を自然から得ていた頃は、雨具も天然素材を用いて作っていた。
丁寧に皮を剥ぐ
雨具の主な材料はアゴヒゲアザラシの腸。
例えばこんな感じのものができ上がる。
雨具
これはカナダのイヌイットのものだが、基本は同じようなもの。
また、チュイリックと呼ばれる、カヤックに乗る際の防水着も作られている。

さて、この腸の処理方法、意外とどこにも出ていないので、メモ代わりにここに記しておこうと思う。
胸骨を切りはずし内臓を露出させる

 アゴヒゲアザラシが捕れると、女性たちが集まって解体が始まる。
皮はウミァックに使うので、穴をあけないように、丁寧に剥がしていく。

皮を剥ぎ終わると、正中線上に切れ目を入れ、胸骨の関節部分を切り取り、内臓を完全に露出させる。

気管、食道を喉の辺りで切り取り、ニクスィック(小型のフック)で気管か食道を引っ掛けて下半身の方へ引く。腹膜を切り取ると、ずるずると内臓は体外へと引き出されて行く。

引きずれ出された内臓(2頭分)
 内臓のうち、腸、腎臓の一部は食用にするが、全てを食べることはほとんどないため、海に戻してしまう。
かつて、犬ぞりを使っていた頃であれば、余った内臓は犬のエサにしたのではないだろうか。

ところで、ポイントホープには、毎年のようにフェアバンクスから海獣の研究者がやってきて、内臓、皮下脂肪などのサンプルを採取していく。
何故か女性研究者しか来ないため、いつしか彼女たちは「ウグルックレディ」と呼ば
れるようになってしまった。アゴヒゲアザラシ女。。。
取り出された内臓からサンプルを集める。
彼女は海獣の研究者。

彼女たちの報告によると、ポイントホープ周辺のアゴヒゲアザラシは重金属の含有量は低く健康的だそうである。

彼女たちは必ず解体を手伝い、その上でサンプルを採取していく。
以前、(彼女たちかどうかわからないが)手伝いもせずサンプルだけ採取しようとして相当怒られた人たちがいたらしい。

さて、今回使う部分は小腸。非常に長いので、適当な長さをナイフで切り取る。
寄生虫(サナダムシ?)
腸の中には100%の確率で寄生虫(条虫の仲間、サナダムシなど)が入っているので、内容物共々綺麗にする。

海岸に転がっている適当な大きさの小石を腸の中に入れて、小石とともに腸の中身をしごき出す。数回繰り返すと、腸の中は綺麗になる。
腸の中の寄生虫はまだ生きていて、うねうねと動いていることも多い。
ちなみに血液中にはアニサキスという寄生虫がたくさんいる。

腸の外側をスプーンでしごき、表皮を剥がしていく
海岸で一通りの処理が終わった腸は、家に持ち帰り水でよく洗う。
すぐに処理できない場合は水に浸けたまま、物置などの涼しい場所に置いておけば、数日間は保存も可能。

水に浸けておいた腸の端を探し出し、段ボールの上で、スプーンを使って端から表面の組織をこそげ落としていく。
腸はかなり強いので、それなりに力を入れてこそいでも、破れることはほとんどない。
処理の終わった腸
丁寧に作業をすれば、内側の組織も一緒に落ちていくが、万全を期して、表面が終わったら、裏返して内側の組織もこそげ落としすことにしている。

完全に組織がとれると、薄い膜だけが残る。
何度か水洗いをしてから、一方の端を紐で結ぶなどして閉じ、もう一方の端から空気を入れていく。
空気を入れて膨らませて乾燥させる
腸に直接口を付けて息を吹き込むと、非常に臭く、口についた匂いが取れなくなりそなので、空気入れを使うことが多い。

空気を入れて膨らませた腸は、日なたであれば1日も干しておくと完全に乾燥し、油紙のような色のものが出来上がる。

これを適当に切り開き、縫い合わせれば、防水ジャケットになる。
ただし、縫い合わせる前に油(現在であればローションなど)をよく塗り込んで揉みほぐしておかないと、針を刺したところから破れてしまう。
また、水濡らしてから針と糸で縫い合わせても、比較的破れにくい。

ウミアックの模型に出来上がった腸を張ったもの
防水ジャケット以外の使い道として個人的に好きなのは、ウミアックの模型に張ること。
本物のウミァックであればアゴヒゲアザラシの皮を張るが、模型の場合、ワモンアザラシの皮を張る人が多い。
しかし、うっすらと骨組みの透けて見える腸を張るのが自分の好み。
ちなみにこの模型、海岸で拾ってきた流木を素材に、接着剤を一切使わず、糸だけで組上げたもの。
昔のウミァックは釘もボルトも使わずに作られていたはずなので、きっとこんな感じだろう、と作ったもの。

2015/09/01

地平線会議で話をします

来る9月25日(金)、地平線会議でお話しさせていただくこととなりました。

地平線会議とは、1979年に発足した、探検・冒険から登山、旅、さらには民族調査やボランティア活動まで、世界を舞台に活動を続けている行動者たちのネットワーク。
詳しくは以下をご覧ください。
地平線会議ウェブサイト
9月25日の案内
 わたくし、イラストでウグルックになってウミアックに乗っておりますよ。

1990年代には、よく色々な方の話を聞きにいっていたのですが、近年はとんとご無沙汰で、記憶にあるのは、犬ぞりで北極圏を走り回っている山崎哲秀さんのときだけ。

ひょんなことから、Facebookで地平線会議の丸山さんと友だちになり(こちらは丸山さんの面識があったものの、丸山さんはこちらの記憶なし)、こんなわけのわからないことをやっているのなら、ぜひ地平線会議で話をして欲しい、ということで、9月の地平線会議で話をすることに。
今まで、話を聞く立場だったのに、いつの間にか話をする立場になるとは。

クジラ猟のことを中心に話をする予定ですので、聞いたことのある方は、同じような話になってしまうかと思いますが、休憩をはさんで2時間半も時間があるので、今までよりもずっと濃い話ができると思います。

日時 2015年9月25日(金) 18:30〜21:00
会費 500円
会場 新宿スポーツセンター(新宿区大久保3-5-1)

予約の必要はないそうですので、時間がある方はぜひ、おいで下さい。

2次会は餃子のおいしい店だそうですよ。

2015/08/18

ウミァックに用いる皮の処理方法


アゴヒゲアザラシの皮を剥ぐ
クジラの猟で使用している皮船、ウミァックに使うアゴヒゲアザラシ(ウグルック)の皮。
ウミァックに張るためには、事前の処理が必要となる。

ウグルックの猟期は6月。
捕まえたウグルックは、脂肪が残らないよう、穴をあけないように、扇型のナイフ、ウルを使い、腹側から丁寧に皮を剥いでいく。

剥いだ皮は、毛の面を外側に、内側同志を合わせて丁寧に畳み、ビニール袋に入れて空気を抜いて密閉する。そして物置や海岸の砂の中など、暖かい場所に数ヶ月(8月頃まで)放置しておく(この時期のポイントホープの気温は氷点下まで下がることは無く、時には20度を越えることもある)。
ビニール袋に入れて密閉してあるものの、暖かい時期なのでハエが入り込み卵を産み、ウジがわくことも多いそうだ。
毛とともに剥がれ落ちた表皮(左側)と所々に毛の残る皮
若い人たちがこのウジのわいた皮の取り扱いに躊躇していると、
「ウジは噛んだりしないんだから気にしなくていいのよ」
とお年寄りに怒られるのだそうだ。

しばらく放置してあったビニール袋を開けるとタンパク質が腐ったような独特な異臭が漂って来る。
ビニール袋の中の皮は、黒い表皮が変質し、ほとんどの毛は表皮とともに剥がれ落ちかかっている。

皮に紐を付けて、海に投げ込んで波で残った毛を洗い流す
袋から出した時点で、ほとんどの毛が剥がれ落ちている皮もあるが、そうでないものも多い。
そこで皮に紐を付けて波打ち際に投げ込む。 波にもまれることで、残った毛が剥がれ落ち、ある程度の汚れも洗い流される。
ウミァックを1艘つくるためには、大きなウグルックの皮が 8枚程必要となるため、これを必要枚数分繰り返すことになる。

毛が残っているものはこの段階でこそげ落とす
海で落ちなかった毛は、ベニア板などで台を作り、その上でウルを使ってこそげ落とす。

ところで写真の人たちが手袋をしているのは、手に匂いが付くと、なかなかとれない程臭いから。

 今回の皮には切り取られて付いていなかったのだが、普通は、前足(前鰭)と後足(尾鰭)の部分は付けた状態でビニール袋に入れてある。
熟成され、非常に臭くなった手と足は、皮を剥いで肉の部分を食べるのだそう。
あまりに臭いので、食べるのは一部のお年寄りだけになってしまったが、美味しいとのこと。

皮の表面、裏面の汚れをこそげ落とす
続いて皮をと呼ぶウミァックを乗せておく棚「イキガック」の周囲に張られた木の枠にぶら下げる。
ここでわずかに残った脂肪や表面の毛、汚れなどをウルを作って丁寧にこそげ落とす。
少しでも脂肪が残っていると、ウミァックに張る際、皮の伸びが悪くなるとのと。

この状態で天候にもよるが1週間程干し続ける。
1週間弱干したもの
夜間は夜露で濡れる可能性があるので、ビニールシートなどをかけておく。 もちろん雨の日も濡れないよう、ビニールシートをかけておく。

1週間もすると、巨大なスルメイカのような色と形となり、叩くと「こんこん」と音がする程固くなる。
ここで夏場の作業は終了。
翌年の2〜3月、ウミァックに張る皮として縫い合わせるまで、乾燥した状態で物置に保管しておく。

縫い合わせる数日前、海氷に穴を開け、乾燥した皮を海水に数日浸けて柔らかくする。
近年、人によっては水道水に塩を入れた「人工海水」を作り、皮を浸ける人もいるとのこと。
柔らかくなった皮を縫い合わせ、フレームにクジラの脂を塗って滑りやすくした状態で、フレームに張る。
皮を張り終わったウミアックは、イキガックに乗せた状態で、しばらく天日にさらしておくと、紫外線によって漂泊され、船体は真っ白になる。

2015/08/16

YouTube

ブログ内でもいくつか紹介していますが、ポイントホープなどで撮影した動画をいくつかYouTubeで公開しております。
一度ブログで紹介してしまうと、同じような動画は紹介しきれなくなるので、改めてここで紹介させていただきます。

エスキモーダンス
 クジラ祭りでのダンス
 ファイティングダンス
 ローラ婆ちゃんのダンス

ナルカタック(ブランケットトス)
 ブランケットトス1
 ブランケットトス2
 ブランケットトス3

ホッキョククジラ
 鳴き声1
 鳴き声2
 鳴き声3(自作水中マイク使用、ブリーチングの映像あり)
 鳴き声4(自作水中マイク使用)
 親子のクジラ
 海の中の音(自作水中マイクによるステレオ録音、イヤホン、ヘッドホンの使用がお勧め)
 Voice from the Arctic Ocean 2018年10月13日、地平線会議主催の「地平線3分映画祭」出展作品。どうしたことか準グランプリ受賞。

ベルーガ(シロイルカ)
 シロイルカの群れの歌声(自作水中マイク使用)
 シロイルカの群れ(氷上より)

ウミガラスの卵拾い
 卵拾い1
 卵拾い2
 卵拾い3

ウグルック(アゴヒゲアザラシ)
 ウグルック猟

氷の動き
 クジラ猟にて
 6月の氷

雲や空
 その1
 その2
 その3(コツビュー)

トレイル
 ツンドラの丘陵地を行く
 スーサイドヒルを下る
 蚊の群れの中を走る
 ノアタック川(コツビュー)

その他
 ポイントホープの水たまりのミジンコ

2015/07/27

いつもと違う

本来なら全面結氷しているはずの2月でも水面が見えていることがあった2015年のポイントホープ。近年は年が明けても開水面が見えていることが多くなったようだ。
薄い氷に生じたクラック
4月初め、町の南、海岸近くに開水面が生じ、クジラの猟が始まった。
早速小型のクジラ(10m弱)が2頭、立て続けに捕れ、今年の猟も順調かと思いきや、その後は開水面が閉じてしまい、薄い氷は5月上旬まで開くことはなかった。
5月上旬、ようやく氷が開いたものの、氷は20cm程度と非常に薄く、たとえクジラが捕れたとしても、果たしてどこへ引き上げれば良いのかという状態だった。
潮の流れ、風による浮氷の移動は早く、猟に出て数時間後には水面が閉じてしまうということが続いた。

流れる氷 (YouTube)
その間、シャーベット状の氷が浮いた小さな水面で、全長5メートルほどの産まれて間もないクジラを捕ってしまうという「事件」もあったが、わずか数日で5月の猟は終了。

その後は強い北風が吹こうが南風が吹こうが、薄い氷は全く動くことはなく、雨と日差しで、氷はさらに薄くなっていった。
5月中旬以降、衛星写真を見ると、ベーリング海の氷はほとんどなく、ポイントホープの周りにわずかに張り付くように残っているような状態だが、氷は全く動かない。

5月下旬になり強い北風が吹き続け、ようやく氷が動き始めたが、今度は風が止まない。風が止まなければ、ボートを出すことはできず、悩ましい日々が続く。

6月になりようやく風が止むが、既にクジラの姿はない。ウグルック(アゴヒケアザラシ)猟の季節になってしまった。
氷上のクラカケアザラシ
氷の上、まだ小さなアゴヒケアザラシ(アレギラック)がいる、と近寄るとそれはクラカケアザラシ。なかなか逃げないので簡単に仕留められる。しかしこの町では食べることはない。
例年、クラカケアザラシを見ることは滅多にない。
また、この時期の海にはアゴヒケアザラシかワモンアザラシしか見ないはずなのだが、ゴマフアザラシ(カシギァック)が群れをなして泳いでいる。アゴヒケアザラシだと思って仕留めた獲物がゴマフアザラシだったことが何度かあった。
この町ではゴマフアザラシを食べることはない。
例年だとゴマフアザラシは、アゴヒケアザラシ猟のあと、海から氷が無くなったあとに波間で遊んでいるのを見るくらいなのだが。

穏やかな日は2日程、その後、吹き始めた強い北風によって氷は沖へと流され、海岸近くに氷はほとんど無くなってしまった。そして次の南風でわずかに氷は戻ってきたものの、強風と波に氷は打ち砕かれてしまった。
大きな波に翻弄される砕かれた氷。こんな様子は生まれてこのかた見たことがない、そんなことを言う人も多かった。

大きな波に翻弄される砕かれた氷の映像(YouTube)
 
6月中旬には完全に氷は無くなり、クジラ祭り、カグロックの際に海には氷がないことは前代未聞だ、とのことだった。

ホッキョクジリス
海は例年にない変化だったが、陸上でもちょっとした変化が起きていた。
町の周りのツンドラにはホッキョクジリス(スィグリック)という大型のリスが生息している。
ツンドラに立って耳をすますと、シュクシュクという鳴き声が聞こえ、周りを見回すとあちこちにいる、そんな状態だった。去年までは。
ところが今年はリスの姿を時々見かける程度で生息数が激減している。
シロフクロウ
町から数マイル離れたキャンプのあるツンドラでもリスの姿はあまり見かけなかった。
代わりに増えたのはシロフクロウ。かつては見かけることさえ難しかったのに、昨年あたりから、ヌヴック(岬の先端)近くのオールドタウンサイト(昔の町があった場所)へ行くと、クジラの骨の上、古い家の上に止まっている姿を良く見かける。
シロフクロウがリスを全て食べてしまったとは思えないのだが(この付近にはネズミも多い)。

海も陸も何かが大きく変わり始めているのだろうか。それとも今年だけのことなのだろうか。
その答えはまだわからない。

2015/07/08

米とコーラ

「日本人ってのは毎日米ばっかり食ってて飽きないのか?」
「米を食ってるって言っても、米だけ食ってるわけじゃないからなあ。他のものも一緒に食べてるし」
「でも朝昼晩と食うときもあるんだろう?」
「そんな人もいるね。うちの両親がそうだよ」
「それでも飽きないのかな」
「生まれて間もなくから米ばっかり食ってるからねえ」
「ふーん」
「おまえだってその赤い缶、飽きないのかよ。毎日何本も飲んでるだろう?」
「これは食べ物じゃなくて飲み物だから」
「どっちにしたって糖分のとり過ぎだと思うよ」
「そうだなあ、じゃあたまには違うのも飲むか」
冷蔵庫から出してきた別の炭酸飲料。
「ええっと、コーラの砂糖が39グラム、こっちが33グラム。ちょっとだけ砂糖が少ない、と。 大して変わらないよ」

この家は月に数百ドルをコーラに使っている。これだけ飲み続けて、よく病気にならないものだと感心する。いや、既になりかかっているのかもしれない。
何を言ってもコーラを辞めようとしないので、自主性に任せるしかないのだが。

2015/05/15

クラック

今年は特に氷が薄い。そして薄いのになかなか氷が開かない。
ようやく氷が開き、猟に出るものの、風向きが変わると、あっという間に沖から氷が近づいて来て水面は閉じてしまう。
 氷が押されるとイヴ(氷脈、プレッシャーリッジ)が出来るので、スノーマシンが通れるように、ボートを運べるようにトレイルを作り直さなくてはならない。

キャンプ設営前に現れたクジラ
作業はつるはしで氷を砕き、凹凸をならして行く。今回のイヴは小さく、 作業自体は大したことは無いのだが、運動不足故、翌日は筋肉痛。
トレイルを開拓していると、すぐ近くをクジラが通過して行く。彼らも今だったら安全だということがわかっているのだろう。
我々が氷の端にキャンプを設営し始めると、姿は見えなくなってしまう。

近年、ウミアックを使うクジラ組は激減していたのだが、今年は氷が薄いこともあり、5月に入ってもウミアックを使うクジラ組が多かった。幸い開水面は狭く、クジラも追いやすい。そしてウミアックを使うとエンジン音を立てないのでクジラも逃げにくい。
ただし、なかなかクジラを捕えられない。
風が止む。水面にはスィクラークと呼ばれる、シャーベット状の氷があちこちに浮いている。
そのシャーベット状の氷の中を、一艘のウミアックが漕ぎ去って行く。
こんな風景がいつまで見られるのだろう、とつい考えてしまう。
実はそう考えてしまうほどに、気候も文化も、大きく代わりつつある。

毎日のように猟に出るものの、毎日のように水面が閉じ、毎日のようにトレイルを作る作業をすることになる。
昨日キャンプがあった場所の氷がイヴとなっている。イヴをみると氷の厚さがわかる。厚さは20センチ程。この厚さだと、たとえクジラが捕れたとしても、引き上げるのは難しい。
新たな場所にキャンプを設営すべく、氷を砕いてトレイルを作る。
他の人の作業の邪魔にならないよう、イヴから雪面に飛び降りると、そのまま足は雪の中へ沈み込む。
キャンプ周辺のクラック。氷の厚さは20cmほど
あ、雪じゃない。クラックだ。ズブズブと海水と雪の混じったシャーベットの中へ足が沈んで行く。
慌てて氷の上に這い上がる。

「氷が薄いんだから気をつけろ、この辺のクラックは雪に覆われてるんだ」

幸いブーツの中にちょっとだけ水の中に入っただけだったので、ザックの中に入っていた予備の靴下と取り替えて事なきを得た。

結局、自分がクラックに落ちたトレイルは危険すぎると言う事で使わずに、別の場所へキャンプを設営する。
たくさんの氷の塊が目の前を流れて行く。時々ベルーガの群れが通過して行く。

沖にクジラが現れた。今回はスピードボートでクジラを追うことに。
キャンプに残った我々は、常にクラックの様子を確認しながら、はるか彼方に行ってしまったボートを双眼鏡で追いかける。
しばらくしてボートが戻る。クジラには近づけなかったそうだ。

気が付けば水面は狭まりつつある。沖側の氷が近づいて来ている。慌てて荷物をまとめて、安全な岸辺へと撤収し、その日の猟は終了した。

参考
開水面と流れて行く氷塊

2015/05/14

ニュースについて

今年、2015年5月13日現在、ポイントホープでは、3頭のクジラが捕れている。
2頭は4月中。3頭目は5月、薄い氷が浮いたそれほど大きくない水面で、かなり悪い条件で捕獲した。
4月中に捕獲した2頭は10m程度の大人の個体なので特に問題はなかったのだが、5月に入って捕獲した個体は、生まれて間もない個体で20フィート(6m)にも満たないものだった。
普通だったらこんな小さな個体は捕獲しないのだが、薄いシャーベット状の氷に覆われた水面に呼吸のために浮上して来たクジラはとても大きく見えた。そして銛を打って間もなく、母クジラが近くに浮上して来たとの事。
捕まえて死んでしまったものをそのまま海に返すようなもったいないことはしない。もちろんきちんと分配する。
未だ母乳だけで育っているであろう小さなクジラは、脂肪層は大型のクジラと比較すると、非常にねっとりとして柔らかだった。

実は、このクジラについては、クジラが捕れた当初から、小さすぎるクジラを捕ってしまった、ということであまり多くを語られることは無かった。
そして色々問題が大きくなっているようで、ついにはニュースにも取り上げられてしまった。
Alaska Dispatch News

氷が薄く、なかなか猟に出る事ができなかったことに対する、ちょっとした焦り。大きなクジラを捕っても、氷が薄すぎて引き上げる場所はほとんどないため、小型の個体を狙っていた。水面とは言え薄い氷で覆われていて、クジラの大きさを見誤った、など様々な悪条件が重なったた結果、こういう自体になったのだと思う。
個人的には、特に意見はない。
ただ、無駄な外圧が加わえられず、今後も無事にクジラの猟が続けられる事を祈るのみ。

2015/04/24

ごきぶり

「ゴキブリは?」
「2週間くらい前に見た」
「絶対に連れて来るなよ。途中、コツビューあたりでカバンを開けてちゃんと確認しろよな」

そんな会話から数日後、成田を離陸した飛行機は、一路韓国のインチョン空港を目指すのだった。
インチョンで乗り換えて10時間、ようやくシアトルへ到着。入国審査はいつになく長い行列で、30分以上待たされた挙げ句、目的のアンカレジ行きの便には間に合わなくなってしまった
よくあることなのか、アラスカ航空の窓口では、すぐに次の便に振り替えてもらえ、2時間遅れでアンカレジ到着。

妹が結婚してアンカレジに住んでいるので、彼の旦那に空港まで迎えに来てもらう。妹と言っても、乳も母も違い、全く血の繫がりのない妹だけれど。

妹の家で2泊。ポイントホープから七面鳥を買ってこいとの指令。近所のスーパーで10キロもある巨大な肉のかたまりを買い、その他にも鶏肉やらジャガイモなど買い込む。

朝、早めに空港へと送ってもらい、さっさとチェックイン。食糧を詰め込んだクーラーボックスが重量超過で割増し料金75ドル。
「どうする?」
と言われても。
「払いたくない」と言っても聞いてもらえそうも無かったので、渋々支払う。
チェックインして空港内を歩いていると、花束を持ったおっさんがこっちを向いて、誰かと何かを喋っている。喋りながらもそのおっさん、しきりにこちらを見つめている。誰だろうと思ったら、ポイントホープ在住の友人だった。
「何してるの? 花束なんか持って」
「3週間も家を留守にしてたから、嫁さんにあげるんだよ」
元々良く喋るおっさん。すれ違う人にいちいち声をかけている。
そんな人だから向こうからも声をかけて来る。
「お、その花束はオレにか?」
「あんたはオレの嫁さんには見えないな、残念だが違うねえ」

さて、搭乗の時間になってもなかなか搭乗が始まる様子が無い。そのうちアナウンスがあり、貨物室の扉が折からの大雪のおかげで気密性が無くなったので修理している、とのこと。アラスカのなのに雪に弱いのか。
しばし待たされ、1時間遅れでようやく搭乗したものの、今度は気密性のチェックをするので、一度降りてくれとのこと。
「そんなもん、中でタバコ吸えば一発でわかるだろ? 隙間から煙が漏れ出すから」
そんなことを言いながらも誰もいやな顔をせずに降りていく。
そして30分後、再搭乗。ちょうど昼時。
「やあ、また会えたね」と客の一人。
ユーコン川上流付近の蛇行と三日月湖
「私の昼ご飯、持って来てくれた?」と客を迎える客室乗務員。
そんなわけのわからん会話をするこの余裕。誰も怒っていないし、焦っていない。さすがアラスカ。

飛行機は一路、コツビューへ。眼下に見える、未だ凍った川と三日月湖に、いつも通りドキドキしているうちに、コツビュー。
ズドン!と着陸。「ぎゃっ!」と叫ぶおばちゃん。こんな荒い操縦じゃ、機体も痛むよな。

空港でポイントホープ行きの便を確保して、友人に連絡。すぐに迎えに来るとのこと。
チェックインは16時と言っていたから、多少は時間があるので、友人宅で昼飯でも食べて、コーヒーでも飲んで。。。

16時に空港へ行くと、飛行機は既に雲の上。
「あんた15:30に来るベきだったのよ。明日の朝の便予約しとく?」
こんな飛行機に乗る。セスナ社製の正真正銘のセスナ機
田舎の空港の気楽さ、その場で翌朝の便を予約してくれた。
既に預けてあった荷物。さすが七面鳥だけあって、先にポイントホープへ飛んで行ってしまった。

恥ずかしながらも再び友人を呼び出して、家に戻る。
友人夫妻は、日本からやって来た間抜けを巻込んで、今宵は何をしようかと、楽しそうに企んでいる。スノーゴー(スノーモービル)でキャビンに行こうとか聞こえて来る。
「暖かい上着も手袋もブーツも何も無いよ(先に飛んで行ってしまった)」
「だいじょーぶ。全部あるから」
というわけでスノーモービルに乗って、ノアタック川の河口近くにある彼らの作りかけのキャビンまで、資材を運ぶことに。

走り出して間もなく、オーバーヒートのランプが点灯し始め、警告音も鳴り始める。
キャビンのすぐ裏側。夏は蚊の巣窟になる
「こんなの点いてるんだけど、大丈夫なの?」
「お前、ゆっくり走りすぎなんだよ。もっとスピード出さないと」
はあ、そう言うものなのか?
スピードを出すと、雪面の凹凸を拾って、人間だけ吹っ飛ばされそうになるけれど、確かにオーバーヒートのランプは消える。

海の上から川の上、そして川岸の丘陵に上がりキャビン到着。 広くて、おまけに冷蔵庫まで用意してある。内装が終わったらテレビも入れるな、これは。
持って来た荷物を下ろし、帰路に付く。
帰りはほぼ全開で(個人の感覚です)。

翌朝。言われた時間の5分程前に空港へ行き、窓口へ。
「今日はポイントホープ行きはまだ出てない?」
「大丈夫、間に合ったよ」
ほっと一息。昨日の快晴とは打って変わって雪が降り続いている。

白波の様に見える部分も薄く凍っている。
1時間後、降りしきる雪の中、搭乗開始。そして出発。
あとは現地の天候次第。目的地が霧や強風だったら、コツビューまで引き返すこともある。
ポイントホープに近づくにつれ雲が切れ始め、眼下の海氷が見えて来る。水面は見えるが、薄い氷に覆われている。これでは猟はできないだろう。
そして着陸。いつもの町。いつもの風景、知った顔がいくつか見える。

父ちゃんが迎えに来てくれていた。
昨夜、12時半くらいまで猟に出ていたそうで、疲れた顔をしている。
とりあえず父ちゃんの家に行くと、母ちゃんと弟と彼の息子、まいたろーがいた。
これはミキアック
みんな元気そうで何より。そして戻って来たことをとても喜んでくれている。
昼飯にミキアックと「臭いマクタック」を食べて、早速幸せな気分。

これから3ヶ月過ごす、弟の家に行く。
「テレビの調子が悪いんだ。衛星アンテナのケーブルの接続不良らしい。外の接続用のスイッチングボックスじゃないかと思うんだけど」
雪の中、家の裏に回りケーブルの接続の確認。特に問題はなさそう。色々いじっているうちに、テレビは完全に写らなくなる。
 「テレビが見られない。どうしよう、信じられん」
落ち込みようが凄まじい。
「ビデオでも見てればよかろ? で、今日はさっさと寝れば良いよ」

先に飛んで来た七面鳥は、すでにポットに入り調理が始まっている。そう、今日は弟の誕生日。
七面鳥、ポテトサラダ、マッシュポテト、トウモロコシ、ケーキ、アップルパイ、フルーツサラダ。食い過ぎた。

部屋で休んでいると誰か来た様子。アンテナの配線をチェックしている。詳しい人を呼んだようだ。しばらくして彼の出した結論は、スイッチングボックス不良。
ならば明日、新しいものを注文しよう、ということになる。テレビの件はとりあえずおしまい。

部屋で荷物を整理していると、弟がやって来た。
「バッグの中にゴキブリ入ってないだろうな」
「大丈夫、アンカレジの妹のところで一度荷物は開けたから」
「OK、それなら安心だ」

ポイントホープにたどり着いたものの、まだ何も始まっていない。

2015/04/01

ウミアックを作ろう!

小学校、中学校時代の幼なじみ、岩内真実(いわうちまさみ)というのがフリーの編集者でして、色々な企画を出版社に持ち込んでは地味に稼ぎ続けています。大きくは売れないけれど、ある程度の部数は確実、という感じなので、出版社からはそれなりの信用を得ているようです。

昨年の秋頃、その岩内が「週刊○○を作る」をやりたいと言い出して、私のところへ相談に来たわけです。他の週刊シリーズとは違ったものがやりたいんだ、と。
というわけで、半ば無理矢理に私が監修をまかされてしまい、こんなシリーズを出すこととなりました。

 「エスキモーの皮舟 ウミアックを作る」

既に全国の書店に並んでいるかと思います。
全国の書店で好評発売中
ウグルック解体用の「ウル(扇形のナイフ)」 が付く上に、船体に張るための本物のアゴヒゲアザラシまで届くという、前代未聞のシリーズです(おまけにかなりお得)。

アゴヒゲアザラシを必要数確保しようとしたものの、アラスカからは輸入できないことがわかり、交渉のためロシアまで行くことになり(私ではないです)、ウルの試作を作るためにグラインダーを買ったり(これは私) 、ここに至るまではかなり大変でしたが、無事に発刊に漕ぎ着けました。

全長約8m、こんなもの作れるんだろうか? と不安になる人がいるかもしれませんが、サポート体制もきちんと作りました。
さすがにアゴヒゲアザラシの皮を剥いで解体まではできない、という人には皮だけ別売りもあります。
どなたでも最後まで完成させられるよう、スタッフ一同で応援する次第です。

※これに伴い、ポイントホープのサイトは、一時的に ウミアック製作のためのサポートサイトとなります。
http://homepage1.nifty.com/arctic/20150401


この記事は、2015年4月1日に書かれたものです!

2015/03/08

春の新作手拭のお知らせ。

みなさん、こんにちは。
3月に入り、すっかり春めいて。。。 いますでしょうか?
花粉の量は春を感じますが。

さて、先日の海旅一座用に作製した手拭が売る程余っております。
皆様に起きましては、ぜひお買い求めいただきたく、こちらにアップする次第です。
売上金は、アラスカ帰郷費用の一部に当てさせていただきます。
値段は1枚600円(すみません、やたらと手間かかるので値上げしました)。
送料は250円です。何枚買っていただいても250円ですので、ご安心ください。

Tシャツもございます。
鳥の絵を前面にプリントしたアメリカサイズのLですので、ちょっと大きめです。これには文字は入っておりません。ご興味ある方はお問い合わせください(Tシャツは限定2枚、1枚2,000円です。送料は300円)

また、以前制作したクジラ袋につきましては、受注生産となりますが、ご希望があれば、作製します。袋のマチがなくなり、形態が多少は変わりますが、大きさはほぼ一緒ですので、ご希望の方はご連絡ください。1枚1,000円です。1枚からご注文お受けします(送料250円)。
※一部のデザインは現在、在庫がございません。

連絡はこちらまでお願いします
RXI01766○nifty.ne.jp (○は@に直して下さい)
クジラ手拭

ウミガラス手拭

ウグルック手拭


2015/02/05

ラジオ放送のお知らせ

以前にもお世話になりましたコミュ二ティFM、中央FMのすっかり看板となってしまった番組、「京橋漁業協同組合ラヂオ」で、我々海旅一座の面々が喋ります。

2月7日はシーカヤックで日本一周中の鈴木克章
2月14日は葦船職人であり砂漠の旅人石川仁
2月21日は革船大工洲澤育範とエスキモー猟師見習いの高沢進吾

内容は聞いてのお楽しみ。
放送は土曜日19時30分から。再放送は次の月曜日の15時30分から。
インターネットでも視聴可能です。
「中央FM」で検索してみてください。

聞いてね!

2015/01/26

海旅一座関東興行追記

みなさま

海旅一座の関東興行が迫って参りました。
まだまだ参加者募集中でございます。

さて、前回のお知らせで浜松興行は、2月8日(日)のみでしたが、前日、7日(土)にも興行が行われることとなりました。
参加希望の方は、当方に連絡していただければ、予約いたします。

2015/01/21

さようなら

2015年1月14日、ポイントホープで最初に友だちになった大好きなエミリーが亡くなった。63歳、若すぎる死だ。

彼女は双子の娘を一度に亡くすという、とても辛い思いもしていた。
その二人のことがあったのだろう。50近くなって、また子どもが育てたいからと、養子をもらって育てていた。
今、14歳のその子は、自律したしっかりした女性に育っている。

「勉強をするのに遅すぎるってことは無いのよ」と言いながら、50歳を過ぎてから、大学の勉強を始め、毎年何らかの単位を取っていた。

一緒に暮らしていたボーイフレンドのビリーは、トリンギット・インディアン。彼もまたエミリーと同じように巨体で、二人の漫才のようなやり取りを聞いているのは、とても楽しかった。

大きな声、巨体を揺らしながら、忙しく働いていたエミリー。
他人に対して厳しいことを言うけれど、それは優しさの現れ。
遠くにいても、怒鳴り散らしたり、喜んだりする、その大きな声で、エミリーがそこにいることはすぐわかった。

子どもの頃から忙しく、働き詰めで、エスキモーらしく生きて来た。

そしてあっけなくいなくなってしまった。

さようなら、エミリー。ありがとう、エミリー。
あなたがいなかったら、ぼくはポイントホープへ通うことはなかったかもしれない。
2014年6月、クジラ祭りにて。ガンの治療中で相当弱って
いたにもかかわらず、何事もないように作業をしていた。

妹のアアナ(右と)(2014年6月)

1993年、初めてあった頃

アンカレジでエミリーのお別れ会のその日、 ぼくのアラスカの妹、ヒラリーに女の子どもが生まれた。
その子は、エミリーのエスキモー名Aumaqpaqを引き継いだ。
おかえり、Aumaqpaq。

2015/01/12

海旅一座関東興行のお知らせ

カイジュウノツカマエカタをご覧になって下さっている皆様

昨年度、主に長崎県で開催された「海旅一座」が今年も興行を行います。
今回は関東興行、ということで千葉県の館山市に始まり、静岡県の浜松市まで興行いたします。
詳しい日程は添付のパンフレットをご覧ください。
葦船を作ったり、普段聞くことのできないような話が聞けたり、非常に濃い集いになること間違いありません。
皆様のご参加をお待ちしております。

2015/01/03

今年もよろしくお願いいたします

カイジュウノツカマエカタをご覧のみなさま、明けましておめでとうございます。
ネタは色々あるのですが、なかなか文章にならず、更新ができておりませんが、本年もご贔屓にお願いします。

さてさて。
今月下旬から、今年も海旅一座の興行が始まります。
今回は関東、中部興行として、まずは千葉の館山で2日間かけて、葦船を作ります。
その合間に、アラスカの話や(これは私です)、シーカヤックによる日本一周の話、伝統的革船の話などなど、盛りだくさん。夜にはカリンバのコンサートなど。
2月上旬には調布、横浜、浜松で興行がございます。

詳細は追ってお知らせしますので、お見逃し無く。