ようやく氷が開き、猟に出るものの、風向きが変わると、あっという間に沖から氷が近づいて来て水面は閉じてしまう。
氷が押されるとイヴ(氷脈、プレッシャーリッジ)が出来るので、スノーマシンが通れるように、ボートを運べるようにトレイルを作り直さなくてはならない。
キャンプ設営前に現れたクジラ |
トレイルを開拓していると、すぐ近くをクジラが通過して行く。彼らも今だったら安全だということがわかっているのだろう。
我々が氷の端にキャンプを設営し始めると、姿は見えなくなってしまう。
近年、ウミアックを使うクジラ組は激減していたのだが、今年は氷が薄いこともあり、5月に入ってもウミアックを使うクジラ組が多かった。幸い開水面は狭く、クジラも追いやすい。そしてウミアックを使うとエンジン音を立てないのでクジラも逃げにくい。
ただし、なかなかクジラを捕えられない。
風が止む。水面にはスィクラークと呼ばれる、シャーベット状の氷があちこちに浮いている。
そのシャーベット状の氷の中を、一艘のウミアックが漕ぎ去って行く。
こんな風景がいつまで見られるのだろう、とつい考えてしまう。
実はそう考えてしまうほどに、気候も文化も、大きく代わりつつある。
毎日のように猟に出るものの、毎日のように水面が閉じ、毎日のようにトレイルを作る作業をすることになる。
昨日キャンプがあった場所の氷がイヴとなっている。イヴをみると氷の厚さがわかる。厚さは20センチ程。この厚さだと、たとえクジラが捕れたとしても、引き上げるのは難しい。
新たな場所にキャンプを設営すべく、氷を砕いてトレイルを作る。
他の人の作業の邪魔にならないよう、イヴから雪面に飛び降りると、そのまま足は雪の中へ沈み込む。
キャンプ周辺のクラック。氷の厚さは20cmほど |
慌てて氷の上に這い上がる。
「氷が薄いんだから気をつけろ、この辺のクラックは雪に覆われてるんだ」
幸いブーツの中にちょっとだけ水の中に入っただけだったので、ザックの中に入っていた予備の靴下と取り替えて事なきを得た。
結局、自分がクラックに落ちたトレイルは危険すぎると言う事で使わずに、別の場所へキャンプを設営する。
たくさんの氷の塊が目の前を流れて行く。時々ベルーガの群れが通過して行く。
沖にクジラが現れた。今回はスピードボートでクジラを追うことに。
キャンプに残った我々は、常にクラックの様子を確認しながら、はるか彼方に行ってしまったボートを双眼鏡で追いかける。
しばらくしてボートが戻る。クジラには近づけなかったそうだ。
気が付けば水面は狭まりつつある。沖側の氷が近づいて来ている。慌てて荷物をまとめて、安全な岸辺へと撤収し、その日の猟は終了した。
参考
開水面と流れて行く氷塊
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