2014/10/10

手拭い、鯨袋販売のお知らせ

突然思い立ってシルクスクリーンを始めました。
シルクスクリーンとは、色々な物が印刷、量産できる技術です。
そんな技術ですが自分自身に技術はまだありません。しかし、色々と「もの」ができてしまったので、販売したいと思い、ここへ告知する次第です。

「手拭い」は今のところ、ウグルック(アゴヒゲアザラシ)とホッキョククジラの2種です(片側に紐を付けると、褌としても使用可能です)。
アゴヒゲアザラシの上に「撃つなよ」と書いてありますが、別にアゴヒゲアザラシ保護を目的にしたものではありません(アゴヒゲアザラシの肉は大好きです)。

鯨袋は3種(袋の形はロットによって変わることがあります)。薄手の「エコバッグ」と呼ばれているバッグです。現在のロットには無駄に「エコマーク」なるものがついております。
ちなみに鯨袋その3(解体)は、ポイントホープにおける鯨の解体方法の略図となっています。

価格は手拭い500円申し訳ございません。現在値上げして600円になっております)、鯨袋1,000円となっております。
送料は200〜300円(枚数によって変わります。)
以前ご紹介したDVDと一緒にご注文の場合は、送料はサービスいたします。
なお、上記送料は国内の場合です。国外に発送する場合はご相談ください。

ご希望の方は
RXI01766@nifty.ne.jp
まで、ご連絡くだされば、追って購入方法をお伝えいたします。
在庫が切れている場合には、発送までに時間がかかる場合がございます。

なお、素人が突然思い立って作り始めた物ですので、出来具合にムラがあること、ご了承ください(色ずれ、色むらなど)。

※気が向いたら新作が出て来る可能性があります。
※※写真を撮ってから気が付いたんだけど、うちの襖、波模様だったのね。。。

現在、クジラ袋は、マチ無しのみの取り扱いとなります。

ウグルック(アゴヒゲアザラシ)手拭い(在庫切れ)
鯨手拭い(在庫切れ)
鯨手拭アップ
鯨袋その2(在庫切れ)
鯨袋その1

鯨袋その3(解体)



2014/09/02

お話会のお知らせ

これは暴挙というか愚挙というのか。個人的には快挙だと思っているのですが、ポイントホープのクジラ猟の写真を見ながらヴィーガン料理を食べよう、という無謀なお話会が開催されます。

ちなみにヴィーガン料理とは動物性たんぱく質を一切使わない野菜だけを使った料理のことです。ベジタリアンの中でも、最も厳格な部類。
それとクジラがどうつながるのか? ええ、つながりません。でもやります。

日時:2014年9月28日(日)17時~20時
場所:minacha-yam (京王線西調布駅徒歩10分)

定員20名ですので、お早めのご予約がお勧めです。
詳細はこちら。
http://minachayam.exblog.jp/22852025/

2014/08/20

イベントのお知らせ

五島列島は行ったことがありませんし、なんのつながりもありませんでしたが、2月の海旅一座長崎巡業の関係で、ちょっとだけつながり、その結果、クジラ猟のお話しをさせて頂くこととなりました。
と申しましても五島でやるのではなく、会場は新宿です。
当日は五島出身の方の歌やバリのダンスなどもございます。
ご興味ございましたら、是非。
詳細は以下をご覧ください。
http://tayutau510.blog.fc2.com/blog-entry-166.html

2014/08/06

DVD販売のお知らせ

(有)海工房代表の門田修さんのご好意により、1976年に東京12チャンネル(現「テレビ東京」)で放映された「酷寒!零下40度 アラスカの鯨狩り」のDVDを販売することとなりました。
このDVDは、1976年にポイントホープのクジラ猟の様子を取材した大変貴重な映像で、当時の様子が克明に記録されています。

2014年現在のクジラ猟とはだいぶ様子が異なっていることもあり、ただDVDだけお送りしても面白くもないので、近年のポイントホープの状況を踏まえた、自分なりに映像を解説した小冊子もお付けします。

なお、1976年当時の16mmフィルムの映像を単純にDVD化しただけですので、画質はそれなりのものと思って下さい。


料金は送料込み1枚2,500円。2枚以上は1枚2,300円です(発送先が国外の場合はご相談ください)。

支払い方法は商品発送時に案内を同封いたします。
以下の情報を RXI01766@nifty.ne.jp までお送りください(いただいた個人情報は、今回のDVD発送以外には使用いたしません)。

郵便番号
住所
氏名
電話番号
必要枚数

※8月中に発送予定ですが、色々立て込んでおりまして、遅くなったら申し訳ありません。

2014/05/02

寿司

ポイントホープで一番古い友人の一人、Eが病気治療のためアンカレジに滞在中とのことで、日本からポイントホープへ向かう途中、彼女が泊まっているホテルを訪ねた(退院してホテルから通院している)。
ドアをノックすると、まるで子どものように泣きながら現れた彼女。
いつも気丈で元気な彼女がおいおい泣いている姿を見ていると、とても不安になってしまう。
 「ねえ、泣かないでよ」
ハグしたまま泣き続けるE。再会できた事が、よほど嬉しかったのか。
Eの巨体をハグしながら、体型がほぼ病気になる前のままだったので、ちょっとだけ安心した。
そして、しばらくして落ち着いたのか、いつもの笑顔が戻って来た。

病気なので何を食べていいのか、食べてはいけないのか分からなかったので、お見舞いに食べ物は持って来なかったが、聞けば特に食事制限はないとのこと。冷蔵庫の中には、友人、親戚が持って来てくれたマクタックやらカリブーの肉がたくさん入っていた。
そしてあまり体重を落としてしまうと病気に対抗できなくなるので、それほど痩せていないらしい。薬の影響で髪の毛が亡くなる人もいるが、彼女の場合はほぼ以前のまま。

次第に口が回り始め、自分の病気の話も、笑い飛ばしそうな勢いになって来た。やはりEはこうでなくちゃ。

傍らに常にぶら下げているバッグから胸にパイプが伸びていて、そこから体内の患部へ薬剤が常に注入されているのだそう。
座るたびに傍らに置き、立ち上がる際に肩に下げる。
「ウェストバッグのように、腰に巻けないの?」
「あ、それは考えても見なかった」
しかし太い彼女の腰はどこにあるのかよくわからない。。。

自分の携帯電話の中の写真を見せていると、日本を出る直前に撮った寿司の写真があった。
「あんた、これ、生の魚食べてるんでしょ?」
「寿司と言ったら生の魚だけど」
「すごいもん食べるのねえ」
「エスキモーって生のもの食わなかったっけ? 生の魚とか生の肉とか」
「何言っているの、私は生もの食わないわよ」
「はい?」
「凍らせて食べているの。あれは生じゃないの」

そう。エスキモーの人たちが食べている「凍らせた」肉や魚は、「生」ではないのだ。
熟成させた食べ物も「生」ではない。
「生」とは、凍らせず、熟成させていない動物から、直接切り取ったものの事と考えればよいのか。
本田勝一氏の著書にあったように、アザラシなどを解体しながら食べる場合は生なのだろう。そう言う意味ではポイントホープの人たちは、「生」のものは、一切食べない。

内緒なのだが、カリブーの袋角(成長中の角)の「生」の先端部分や「生」の肝臓は、捕れたてをその場で食うととても美味。
ただし、どんな病気が待ち受けているかは知らない(今も元気だから、たぶん大丈夫。たぶん)。

それはともかく、早く元気になってもらって、ポイントホープでEの明るく大きな笑い声を聞きたい。

2014/04/01

新聞再び

みなさま。
4月1日付アラスカの地元ローカル誌に私の記事が掲載されました。
大変有り難いことです。
新聞社から許可をもらったので、紙面を載せておきますね。ご覧ください。
昨年から、メディアへの露出が増えて、嬉しいやら恥ずかしいやらです。



はい、以上、エイプリルフールでございました。
元ネタはこちらです。

2014/03/30

ラジオに出ます

先日、知り合いの編集者の方のお誘いで「京橋漁業協同組合ラヂオ」と言う番組の収録に行って参りました。
ポイントホープのクジラの猟について、聞かれるままに喋ったような気がしますが、よく覚えていません。
かなり緊張していたようで、収録時は何ともなかった胃袋が、終わってしばらくしてからじわじわと痛くなって来るという状態でした。しばらくすると落ち着いて来たので、居酒屋で、長々とバカ話をしておりましたが。
以前、日本テレビでアナウンサーをやっていた薮本雅子さんと、千葉の海苔漁師、金萬さん(関係筋では有名)が司会をしている、魚や海に関わる番組です。
東京都中央区のコミュニティFMなのですが、ネットで聞けます。
RADIKOでは聞けませんが、iPhoneだと「TuneIn Radio」などのアプリで聞くことが可能。
放送は4/5(土)19:30〜20:00です。
時間あったら聞いてください(再放送は4/7(月)15時30分~)。
https://www.facebook.com/Kyobashi.fc.radio
http://www.simulradio.jp/asx/chuo_fm.asx

バブリーな時代を知っている人だと、薮本さんのことを知っている人も多いかと思います。彼女の居酒屋でのぶっ壊れぶりと言ったら。。。 いや、ここには書けません。

2014/03/17

飲み物の秘密

「新しい冷蔵庫を買ったよ」
「へぇ、どんなやつ?」
「製氷機がついていて、冷たい水も出てくるやつ」
「おお、いいじゃん、で何を入れる? やっぱりコカコーラ?」

先日、新しい冷蔵庫を買ったと電話がかかってきた。買ったのは冷蔵庫だけではなく、台所用のストーブ(ガス台、オーブンがセットになったもの)他、高額な品々各種。臨時収入があった模様。
そんな会話の中で出てきたコカコーラ。
実はHの家の主要飲料は缶入りのコカコーラである。
そのほかの飲み物は、果汁が入っているのかいないのかわからないジュースとエバミルク(濃縮牛乳、砂糖の入っていない練乳)。

エバミルクは7歳の長男が3倍に薄めてもらったものを哺乳瓶に入れて飲んでいる( これについのコメントは特にない)。

家主のHと奥方のEは、毎日水代わりにコカコーラを飲んでいる。
午前中、職場で1本。昼食時に1本。午後、職場で1本。帰宅して1本。夕食時に1本、テレビを見ながら1本、寝る前に1本。
これだけで7本。毎回1本丸々空けるわけではなく、半分ほど飲んで、そのまま忘れてしまい、温まったコーラはいらないと、捨ててしまうものも多いので、都合1日5本分程度飲んでいることになる。

冷蔵庫には、常に36本入りのコーラの箱が2箱入っている。台所の戸棚には4箱ほど保存してあるが、こんな調子で飲んでいるし、人が訪ねてくれば、コーラを勧め、仲の良い人たちは勝手に冷蔵庫からコーラを出して飲んでいるので、コーラは見る見る減って行く。

コーラなどの炭酸飲料は、町にある店で買うと、1本1ドル以上するので、代金引換の通信販売で買っている(1本1ドル以下)。
郵便物は郵便局まで引き取りに行かなくてはならないので、何箱ものコーラを注文しておいて、台所のコーラが無くなったら、現金や小切手を持って、受け取りに行く。郵便局を物置代わりにしているのだ。

「金持ってる? コーラが無くなっちゃったから郵便局から出してきてもらえないかな? 次の給料日には返すから」
彼らの給料日は2週間に一度。各種ローンを支払い、日々の食料であるやたらと高い鶏肉や冷凍食品を町の店で買うと、あっと言う間に給料はなくなる(らしい)ので、給料日にコーラ代を払って貰ったことはない。
しかし居候の身分で、自分も1日1本くらいはコーラを飲んでいるので、あまり文句は言えない。

「ねえ、喉が乾いちゃったからコーラ持って来て。さっき買ったの不味くて飲めないのよ」
夕方4時過ぎ、家で洗濯物を畳んでいると、Eから電話がかかってきた。
仕事は5時までなんだから、ちょっと我慢すりゃいいのに、と思いつつ、彼女の職場までコーラを持って行く。
「もう、大変よ。飲み物無いから喉に詰まるかと思ったわよ」
ポテトチップスの大袋を指差しながら、Eが言う。
そんな物、食ってるから、のども乾くわけだ。
「これさ、すっごく不味いのよ。買うんじゃなかった」
と、傍らにあった一口だけ飲んだと「バニラ・コーク」のボトルを指差す。
甘いコーラにバニラの香りをつけた、さらに甘ったるく感じるバニラ・コーク。
「そんなもの飲まないで水でも飲んでれば?」
「水なんか飲まないわよ。あんた飲んでなさいよ」
ええ、水、飲んでますとも。
 「コーラばっかり飲んでないで、コーヒーでも飲めば?」
「あんなまずいもの、誰が飲むもんですか」
Eはコーラやジュースなど甘い物しか飲まない。 その結果なのか何なのか、巨体を持て余し、30代にして総入れ歯。
余談だが、Eが外出する際、入れ歯を口に入れながら、出かけていく姿は、スーパーヘビー級のボクサーが、マウスピースをはめながらリングの中央へと向かっていく姿を思い浮かべてしまう。
ただし、ボクサーは引締まった筋肉質だが、彼女はぼよんぼよん脂質。

Eはかつて、大きな病気をして、しばらくシアトルの大病院に入院していたことがある。生死に係るような病気で、長期入院しながら薬物治療を受けていた。
しばらくして無事に退院したと聞き、一安心したとともに、重い病気の薬物治療、快復したとはいえ容姿がどれだけ変わってしまったのか、とても心配だった。
翌年春、いつものようにポイントホープを訪れると、彼女の姿は、薬物治療のために髪の毛が短くなっていたものの 、それ以外はなんら変化はなかった。
「げっそりと痩せてしまったかと思ったのに、ぜんぜん変わってないじゃない」
「だって、病院の食事が美味しくないんだもの」
病院の食事がおいしくなくて、痩せていないってどういうことだ??
「Hが毎日ハンバーガー買ってきてくれたの。もちろんコーラも一緒に」
「病室でそんなもの食ってよかったの?」
「内緒なんだけどね」
他の病気にならないことを望む。。。

ある日のHとの会話。
「お前さあ、あんまりコーラばっかり飲んでると病気になってしまうよ」
「大丈夫だよ、父ちゃんだって病気になってないし」
そんなHも数ヶ月だけコーラを止めたことがある。理由はただ、「やってみたかった」から。そのときは、コーラの代わりにペットボトルに入った水を飲み続けていたそうだ。その結果、体重は10キロ以上落ちたという。
ただ、その間も、EはHの横でコーラを飲み続けていたので、結局は誘惑に負けて、元のコーラ生活に戻ってしまったが。

その「病気になっていなかったHの父ちゃん」は、毎日大量のコーラを飲み続けていたが、50代になってから、体重の増加、高血圧などを理由にコーラを含む炭酸飲料を飲むのをぴたりと止め、普段はブラックコーヒーや水を飲んでいる。

クジラの猟に出る際も炭酸飲料は欠かさない。凍らないようにクーラーバッグに入れて置いてあり、誰でも好きなときに好きなように飲めるようになっている。
各自こだわりがあり、コカコーラしか飲まない、ペプシしか飲まない人がいるので、コカコーラ、ペプシ、ルートビアなど、数種類の炭酸飲料が大量に入っている。
一仕事して大汗をかいたあとに飲む炭酸飲料はとても美味い。
氷点下10度近いときでも、きちんとした服を着ていれば、冷たい炭酸飲料も抵抗無く飲める。それどころか、大量の糖分が身体を温めてくれるような気がしないでもない。
 炭酸飲料のクーラーバッグの横には、キャンディーバー(スニッカーズなどのチョコレート類)など軽食の入ったバッグが置いてある。
そのキャンディーバーを食べながら、コーラを飲んでいると「自分は一体どれだけ大量の糖分をとっているんだ?」という疑問と罪悪感のような気分が湧き出して来る。そんなときは、軽食のバッグに入っている魔法瓶のブラックコーヒーを飲んで、気分を紛らわせている。

かつて、エスキモーは不飽和脂肪酸の豊富なアザラシの脂を摂るので心臓病のリスクが低い、と言われていた。
今ではアザラシの脂肪を摂る量は減ってきており、若者の中には、アザラシ類を一切食べないものもいる。
食生活がアメリカ化してきた結果、Hの父ちゃんのように血圧を下げる薬が必要な人は多い。糖分の取りすぎで糖尿病予備軍も多いことだろう。
 エスキモーに限らず、アメリカの先住民の間では、糖尿病などの成人病が深刻な問題となっている。
1日に3本炭酸飲料を飲めば、砂糖を100グラム以上摂取することになる。その他に甘いチョコや高カロリーの食事を食べ、先祖伝来の食事は減り、さらに野菜はあまり食べない。
身体も悪くなろう。

Hの家族、せめて1日に飲むコーラの量を半分にして欲しいと思うのだ。せっかく水が出てくる冷蔵庫を買ったのだから、水を飲んで欲しい。

「1年間にコーラにいくら使ってる?」
「うーん、わからない。計算したことない」
「コーラを飲むのをやめると、ものすごく大金持ちになれると思うよ」
「ああ、たぶんね」
「ホンダだって1~2台買えるんじゃないの?」
「かもしれないねえ」

2014/02/18

ジョー

「おう、シンゴ、今年も来たんだな」
「あ、うん。ええっと.。。。」
聞いたことのある声、見たことのある風貌、だけど誰だか思い出せない。
「何だお前、オレが誰かわからないのか? ジョー、ジョー・フランクソンだよ」
「なんだ、ジョーか、久しぶり。サングラスして帽子なんてかぶってるから誰か分からなかったよ」
5月、氷の上でクジラを引き上げる準備をしているときのこと。80歳近くなっても、今も現役のクジラ猟のキャプテンのジョー。
クジラを捕った直後のジョー
普段、サングラスもしていないし帽子もかぶっていないので、本当に誰だか分からなかった。

数日後、そのジョーのクルーがクジラを捕ったと連絡が入った。小さなクジラだったので、現場にたどり着いたときには、クジラは既に氷の上。
キャプテンのジョーにおめでとうと言ってから、解体の輪に加わる。 我々のニギャック(分け前)分を切り取り、ついでに他のクルーの分も手伝って、解体はあっという間に終了した。

その年のカグロック(クジラ祭り)2日目。
ジョーが人々の名前を呼びながら、クジラの尾びれ「アヴァラック」を配っているところ

を写真を撮りながら、うろうろしていた。
アヴァラックを切るクルーを見守るジョー
「シンゴー、シンゴいるか? シンゴ・キニヴァック」
ジョーが呼んでいる。
「キニヴァック」は自分の所属するクジラ組のキャプテンのラストネーム。一応、自分はキャプテンの息子ということになっているので、間違えではない(と思う)。
ジョーがこちらを見ながら、いたずらっぽい目で笑っている。周りの人たちも笑っている。
「ありがとう、ジョー」
アヴァラックを受け取り、ジョーとハグをする。

ジョーはこの年を最後に、キャプテンを後任に譲った。しかし翌年も積極的に猟には出続けていた。

2014年、ジョーがアンカレジの病院へ入院したと聞いた。脳溢血だったらしい。
娘のHが時々、Facebookにジョーとのやり取りを載せていたので、まだ回復の見込みはあるものと思っていた。
しかし、次第にHの書き込みは減っていった。

ある暖かい冬の日の午後、打合せ帰りに電車に乗って携帯電話でFacebookを見ていた。誰かが元気な頃のジョーの写真をアップし「R.I.P.」と記していた。
「Rest in Peace」日本語にすれば「ご冥福をお祈りいたします」

また、ポイントホープの歴史を知る一人がこの世の中からいなくなってしまった。なんと寂しいことだろう。
ジョー、まさかこんなにあっけなく行ってしまうとは思わなかったよ。

2014/01/22

クジラの切り方

ポイントホープの場合、クジラに最初に銛を打ったクジラ組のキャプテンにそのクジラの所有権があり、解体から分配まで、そのキャプテンの指示に従うことになる。
ただし、分配方法にはポイントホープに伝わる手法があるため、好き勝手に分配するわけにはいかない。

銛が脊椎にあたれば、一発でクジラが死ぬが、滅多にそういうことはないので、付近にいた他のクジラ組が続けて銛を打つことになる。
たとえば、付近にいたクジラ組3組の銛だけでクジラが絶命したとする。4組目が現場にたどり着いたとき、クジラは既にロープに縛られ海に浮いている。4組目は、ボートのパドルでクジラに触れる。そのことで4番目に銛を打ったと見なされる。以下、5番、6番目も同様である。

クジラを曳航中
クジラを曵いて氷の際まで。かつては手漕ぎのウミァックで延々とパドルを動かし続けていたが、近年はスピードボート(モーターボート)を使うことが多くなり、肉体的には楽になって来ている。
それでもクジラを氷の際まで運んで来るのに、何艘ものボートで数時間かかることも多い。

各部の名称
クジラに印を付ける
右のピンク色の部分はマクタックを切り取った場所
氷の際まで運んで来たクジラは、水中にある状態で、尾びれ「アヴァラック」を切り取る。その後、切り分ける目印にするため、ロープとナイフを使い、クジラの胴体を回転させながら印を付けていく。
銛を打った順番で、貰える部位「ニギャック(分け前)」が決まっている。
例えば3番銛は「カー(下顎の部分)」5番銛は「スィルヴィック(腹部)」など(右図参照)。
クジラが氷の際へ曵き寄せられ、ある程度印が付けられると、胴体の「ウアティ」と呼ばれる部位から表皮(マクタック)の一部が切り取られ、その場で茹でられて、作業している人たちに振る舞われる。
そして滑車とロープを使ってクジラ氷上へ引き上げ、クジラに付けられた印に従って解体を勧めていく(引き上げ、解体についてはそのうち)。

2013年6月、50フィート(15m)ほどの巨大なクジラが捕れた。我々のクジラ組は、5番目にクジラに触れたので(クジラにたどり着いたとき、既に絶命し曳航がはじまっていた)、我々のニギャックはスィルヴィックとなった。
猟期も終わりに近い6月、氷は薄く、クジラを引き上げるたびに、クジラの重みで薄い氷が割れ、解体は難航した。
マクタックを剥ぎ取り、クジラを少し軽くしてから引き上げを試みたが、相変わらず氷は割れ続ける。
次第にクジラ周辺の氷は危険な状態になり、結局一部のマクタックと肉しか回収できなかった。そして我々のニギャックは最後まで切り取ることはできなかった。
 そんな状態でも、一番銛を打ったクジラ組のキャプテンから、町の各戸、猟に参加したクジラ組のキャプテンにマクタックと肉が配布された。
キャプテンに配られたマクタックと肉は、さらにそれぞれのクルーへと分配された。

ポイントホープでクジラが捕れれば、小さいクジラであっても、何らかの理由で肉が全て回収できなくても、町中の人たちがマクタック、肉を得られるようになっている。


2014/01/01

新年のご挨拶とお知らせ

明けましておめでとうございます。

昨年後半から年末にかけて、何かとやることが多くなり、長いこと更新が滞っておりました。今年はなるべくネタを見付けて、更新するよう努力しますので、今後ともよろしくお願いいたします。

さて、2月から「海旅一座」という芸人の巡業が始まります。
「海から賜ったもの」というテーマのもと、今回の巡業では、長崎、佐世保に始まって、九州、中国地方を回ります。
私は時間の都合で、長崎、佐世保巡業にしか参加できませんが「海を喰らう」として、クジラの猟、捕ったクジラの食べ方などについて話をする予定です。
その道のプロフェッショナルによる、滅多に聞くことのできない、海旅の話を聞くことができると思います。

皆様のご参加をお待ちしております。



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■2014年 長崎~福岡~島根~山口の新春海旅芸人巡業
「海旅一座 長崎旗揚げ夜話会」
テーマ「海から賜ったもの」
話士

洲澤育範(皮舟大工) 「時を行く舟」
高沢進吾(エスキモー猟師見習い) 「海を喰らう」
鈴木克章(シーカヤック海洋冒険家) 「海気の向こう側」
石川仁(葦船海洋冒険家) 「草の船で海を舞う」

■日時 2014年2月1日(土)   開場 17:00 開演 17:30~20:00
■参加費 ¥1,500(飲み物付き) 小学生以下は無料
■場所「長崎シビックホール」 住所 長崎市常盤町1-1 メットライフアリコビル1F 電話 095-822-8161 アクセス 路面電車「市民病院駅」下車徒歩3分 駐車場 近くにコインパーキングあり
■担当・問合せ申込先  石川仁 090-9345-5372 
■講演内容
海旅のスペシャリストたちが、長崎の地より海の手紙をお渡しいたします。
○洲澤育範(皮舟大工) 

「時を行く舟」
 海から生まれた命は海へ還りたい、海を旅したい。われわれの血の奥底に眠る海洋ほ乳動物の記憶を呼び覚ます道具、それが革舟・カヤック、それが皮舟・バークカヌー。 http://elcoyote1990.com/
○高沢進吾(エスキモー猟師見習い) 

「海を喰らう」
アラスカ北極圏イヌピアック・エスキモーの町「ポイントホープ」に通い始めで20余年。クジラ猟に参加すること10数年。時代とともに変化し続ける文化と、今に続く伝統を吸収したいと今も通い続けている。

 http://homepage1.nifty.com/arctic/
○鈴木克章(シーカヤック海洋冒険家) 

「海気の向こう側」
手漕ぎ舟日本一周の海旅のお話。一人ぼっちで海を漕ぎ続けた25ヶ月間。 左足はどこまでも連続した野生へ。右足は現代日本社会へ。 軸なる私はその様な環境の中で、何を思い何を感じたのか。そして何を伝えたいのか。

 http://hirumanonagareboshi.hamazo.tv/
○石川仁(葦船海洋冒険家)
 
「草の船で海を舞う」
 人類が作り出した最初の乗り物とされる葦船(あしぶね)で海を渡る。まるでタイムマシンのように数千年前まで感覚が戻されていく海旅。そこにはむき出しの自然と戦い、そして抱き合うドラマがあった。 http://kamuna.net