2014/02/18

ジョー

「おう、シンゴ、今年も来たんだな」
「あ、うん。ええっと.。。。」
聞いたことのある声、見たことのある風貌、だけど誰だか思い出せない。
「何だお前、オレが誰かわからないのか? ジョー、ジョー・フランクソンだよ」
「なんだ、ジョーか、久しぶり。サングラスして帽子なんてかぶってるから誰か分からなかったよ」
5月、氷の上でクジラを引き上げる準備をしているときのこと。80歳近くなっても、今も現役のクジラ猟のキャプテンのジョー。
クジラを捕った直後のジョー
普段、サングラスもしていないし帽子もかぶっていないので、本当に誰だか分からなかった。

数日後、そのジョーのクルーがクジラを捕ったと連絡が入った。小さなクジラだったので、現場にたどり着いたときには、クジラは既に氷の上。
キャプテンのジョーにおめでとうと言ってから、解体の輪に加わる。 我々のニギャック(分け前)分を切り取り、ついでに他のクルーの分も手伝って、解体はあっという間に終了した。

その年のカグロック(クジラ祭り)2日目。
ジョーが人々の名前を呼びながら、クジラの尾びれ「アヴァラック」を配っているところ

を写真を撮りながら、うろうろしていた。
アヴァラックを切るクルーを見守るジョー
「シンゴー、シンゴいるか? シンゴ・キニヴァック」
ジョーが呼んでいる。
「キニヴァック」は自分の所属するクジラ組のキャプテンのラストネーム。一応、自分はキャプテンの息子ということになっているので、間違えではない(と思う)。
ジョーがこちらを見ながら、いたずらっぽい目で笑っている。周りの人たちも笑っている。
「ありがとう、ジョー」
アヴァラックを受け取り、ジョーとハグをする。

ジョーはこの年を最後に、キャプテンを後任に譲った。しかし翌年も積極的に猟には出続けていた。

2014年、ジョーがアンカレジの病院へ入院したと聞いた。脳溢血だったらしい。
娘のHが時々、Facebookにジョーとのやり取りを載せていたので、まだ回復の見込みはあるものと思っていた。
しかし、次第にHの書き込みは減っていった。

ある暖かい冬の日の午後、打合せ帰りに電車に乗って携帯電話でFacebookを見ていた。誰かが元気な頃のジョーの写真をアップし「R.I.P.」と記していた。
「Rest in Peace」日本語にすれば「ご冥福をお祈りいたします」

また、ポイントホープの歴史を知る一人がこの世の中からいなくなってしまった。なんと寂しいことだろう。
ジョー、まさかこんなにあっけなく行ってしまうとは思わなかったよ。

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