「へぇ、どんなやつ?」
「製氷機がついていて、冷たい水も出てくるやつ」
「おお、いいじゃん、で何を入れる? やっぱりコカコーラ?」
先日、新しい冷蔵庫を買ったと電話がかかってきた。買ったのは冷蔵庫だけではなく、台所用のストーブ(ガス台、オーブンがセットになったもの)他、高額な品々各種。臨時収入があった模様。
そんな会話の中で出てきたコカコーラ。
実はHの家の主要飲料は缶入りのコカコーラである。
そのほかの飲み物は、果汁が入っているのかいないのかわからないジュースとエバミルク(濃縮牛乳、砂糖の入っていない練乳)。
エバミルクは7歳の長男が3倍に薄めてもらったものを哺乳瓶に入れて飲んでいる( これについのコメントは特にない)。
家主のHと奥方のEは、毎日水代わりにコカコーラを飲んでいる。
午前中、職場で1本。昼食時に1本。午後、職場で1本。帰宅して1本。夕食時に1本、テレビを見ながら1本、寝る前に1本。
これだけで7本。毎回1本丸々空けるわけではなく、半分ほど飲んで、そのまま忘れてしまい、温まったコーラはいらないと、捨ててしまうものも多いので、都合1日5本分程度飲んでいることになる。
冷蔵庫には、常に36本入りのコーラの箱が2箱入っている。台所の戸棚には4箱ほど保存してあるが、こんな調子で飲んでいるし、人が訪ねてくれば、コーラを勧め、仲の良い人たちは勝手に冷蔵庫からコーラを出して飲んでいるので、コーラは見る見る減って行く。
コーラなどの炭酸飲料は、町にある店で買うと、1本1ドル以上するので、代金引換の通信販売で買っている(1本1ドル以下)。
郵便物は郵便局まで引き取りに行かなくてはならないので、何箱ものコーラを注文しておいて、台所のコーラが無くなったら、現金や小切手を持って、受け取りに行く。郵便局を物置代わりにしているのだ。
「金持ってる? コーラが無くなっちゃったから郵便局から出してきてもらえないかな? 次の給料日には返すから」
彼らの給料日は2週間に一度。各種ローンを支払い、日々の食料であるやたらと高い鶏肉や冷凍食品を町の店で買うと、あっと言う間に給料はなくなる(らしい)ので、給料日にコーラ代を払って貰ったことはない。
しかし居候の身分で、自分も1日1本くらいはコーラを飲んでいるので、あまり文句は言えない。
「ねえ、喉が乾いちゃったからコーラ持って来て。さっき買ったの不味くて飲めないのよ」
夕方4時過ぎ、家で洗濯物を畳んでいると、Eから電話がかかってきた。
仕事は5時までなんだから、ちょっと我慢すりゃいいのに、と思いつつ、彼女の職場までコーラを持って行く。
「もう、大変よ。飲み物無いから喉に詰まるかと思ったわよ」
ポテトチップスの大袋を指差しながら、Eが言う。
そんな物、食ってるから、のども乾くわけだ。
「これさ、すっごく不味いのよ。買うんじゃなかった」
と、傍らにあった一口だけ飲んだと「バニラ・コーク」のボトルを指差す。
甘いコーラにバニラの香りをつけた、さらに甘ったるく感じるバニラ・コーク。
「そんなもの飲まないで水でも飲んでれば?」
「水なんか飲まないわよ。あんた飲んでなさいよ」
ええ、水、飲んでますとも。
「コーラばっかり飲んでないで、コーヒーでも飲めば?」
「あんなまずいもの、誰が飲むもんですか」
Eはコーラやジュースなど甘い物しか飲まない。 その結果なのか何なのか、巨体を持て余し、30代にして総入れ歯。
仕事は5時までなんだから、ちょっと我慢すりゃいいのに、と思いつつ、彼女の職場までコーラを持って行く。
「もう、大変よ。飲み物無いから喉に詰まるかと思ったわよ」
ポテトチップスの大袋を指差しながら、Eが言う。
そんな物、食ってるから、のども乾くわけだ。
「これさ、すっごく不味いのよ。買うんじゃなかった」
と、傍らにあった一口だけ飲んだと「バニラ・コーク」のボトルを指差す。
甘いコーラにバニラの香りをつけた、さらに甘ったるく感じるバニラ・コーク。
「そんなもの飲まないで水でも飲んでれば?」
「水なんか飲まないわよ。あんた飲んでなさいよ」
ええ、水、飲んでますとも。
「コーラばっかり飲んでないで、コーヒーでも飲めば?」
「あんなまずいもの、誰が飲むもんですか」
Eはコーラやジュースなど甘い物しか飲まない。 その結果なのか何なのか、巨体を持て余し、30代にして総入れ歯。
余談だが、Eが外出する際、入れ歯を口に入れながら、出かけていく姿は、スーパーヘビー級のボクサーが、マウスピースをはめながらリングの中央へと向かっていく姿を思い浮かべてしまう。
ただし、ボクサーは引締まった筋肉質だが、彼女はぼよんぼよん脂質。
Eはかつて、大きな病気をして、しばらくシアトルの大病院に入院していたことがある。生死に係るような病気で、長期入院しながら薬物治療を受けていた。
しばらくして無事に退院したと聞き、一安心したとともに、重い病気の薬物治療、快復したとはいえ容姿がどれだけ変わってしまったのか、とても心配だった。
翌年春、いつものようにポイントホープを訪れると、彼女の姿は、薬物治療のために髪の毛が短くなっていたものの 、それ以外はなんら変化はなかった。
「げっそりと痩せてしまったかと思ったのに、ぜんぜん変わってないじゃない」
「だって、病院の食事が美味しくないんだもの」
病院の食事がおいしくなくて、痩せていないってどういうことだ??
「Hが毎日ハンバーガー買ってきてくれたの。もちろんコーラも一緒に」
「病室でそんなもの食ってよかったの?」
「内緒なんだけどね」
他の病気にならないことを望む。。。
ある日のHとの会話。
「お前さあ、あんまりコーラばっかり飲んでると病気になってしまうよ」
「大丈夫だよ、父ちゃんだって病気になってないし」
そんなHも数ヶ月だけコーラを止めたことがある。理由はただ、「やってみたかった」から。そのときは、コーラの代わりにペットボトルに入った水を飲み続けていたそうだ。その結果、体重は10キロ以上落ちたという。
ただ、その間も、EはHの横でコーラを飲み続けていたので、結局は誘惑に負けて、元のコーラ生活に戻ってしまったが。
その「病気になっていなかったHの父ちゃん」は、毎日大量のコーラを飲み続けていたが、50代になってから、体重の増加、高血圧などを理由にコーラを含む炭酸飲料を飲むのをぴたりと止め、普段はブラックコーヒーや水を飲んでいる。
クジラの猟に出る際も炭酸飲料は欠かさない。凍らないようにクーラーバッグに入れて置いてあり、誰でも好きなときに好きなように飲めるようになっている。
各自こだわりがあり、コカコーラしか飲まない、ペプシしか飲まない人がいるので、コカコーラ、ペプシ、ルートビアなど、数種類の炭酸飲料が大量に入っている。
一仕事して大汗をかいたあとに飲む炭酸飲料はとても美味い。
氷点下10度近いときでも、きちんとした服を着ていれば、冷たい炭酸飲料も抵抗無く飲める。それどころか、大量の糖分が身体を温めてくれるような気がしないでもない。
炭酸飲料のクーラーバッグの横には、キャンディーバー(スニッカーズなどのチョコレート類)など軽食の入ったバッグが置いてある。
そのキャンディーバーを食べながら、コーラを飲んでいると「自分は一体どれだけ大量の糖分をとっているんだ?」という疑問と罪悪感のような気分が湧き出して来る。そんなときは、軽食のバッグに入っている魔法瓶のブラックコーヒーを飲んで、気分を紛らわせている。
かつて、エスキモーは不飽和脂肪酸の豊富なアザラシの脂を摂るので心臓病のリスクが低い、と言われていた。
今ではアザラシの脂肪を摂る量は減ってきており、若者の中には、アザラシ類を一切食べないものもいる。
食生活がアメリカ化してきた結果、Hの父ちゃんのように血圧を下げる薬が必要な人は多い。糖分の取りすぎで糖尿病予備軍も多いことだろう。
エスキモーに限らず、アメリカの先住民の間では、糖尿病などの成人病が深刻な問題となっている。
1日に3本炭酸飲料を飲めば、砂糖を100グラム以上摂取することになる。その他に甘いチョコや高カロリーの食事を食べ、先祖伝来の食事は減り、さらに野菜はあまり食べない。
身体も悪くなろう。
Hの家族、せめて1日に飲むコーラの量を半分にして欲しいと思うのだ。せっかく水が出てくる冷蔵庫を買ったのだから、水を飲んで欲しい。
「1年間にコーラにいくら使ってる?」
「うーん、わからない。計算したことない」
「コーラを飲むのをやめると、ものすごく大金持ちになれると思うよ」
「ああ、たぶんね」
「ホンダだって1~2台買えるんじゃないの?」
「かもしれないねえ」
ただし、ボクサーは引締まった筋肉質だが、彼女はぼよんぼよん脂質。
Eはかつて、大きな病気をして、しばらくシアトルの大病院に入院していたことがある。生死に係るような病気で、長期入院しながら薬物治療を受けていた。
しばらくして無事に退院したと聞き、一安心したとともに、重い病気の薬物治療、快復したとはいえ容姿がどれだけ変わってしまったのか、とても心配だった。
翌年春、いつものようにポイントホープを訪れると、彼女の姿は、薬物治療のために髪の毛が短くなっていたものの 、それ以外はなんら変化はなかった。
「げっそりと痩せてしまったかと思ったのに、ぜんぜん変わってないじゃない」
「だって、病院の食事が美味しくないんだもの」
病院の食事がおいしくなくて、痩せていないってどういうことだ??
「Hが毎日ハンバーガー買ってきてくれたの。もちろんコーラも一緒に」
「病室でそんなもの食ってよかったの?」
「内緒なんだけどね」
他の病気にならないことを望む。。。
ある日のHとの会話。
「お前さあ、あんまりコーラばっかり飲んでると病気になってしまうよ」
「大丈夫だよ、父ちゃんだって病気になってないし」
そんなHも数ヶ月だけコーラを止めたことがある。理由はただ、「やってみたかった」から。そのときは、コーラの代わりにペットボトルに入った水を飲み続けていたそうだ。その結果、体重は10キロ以上落ちたという。
ただ、その間も、EはHの横でコーラを飲み続けていたので、結局は誘惑に負けて、元のコーラ生活に戻ってしまったが。
その「病気になっていなかったHの父ちゃん」は、毎日大量のコーラを飲み続けていたが、50代になってから、体重の増加、高血圧などを理由にコーラを含む炭酸飲料を飲むのをぴたりと止め、普段はブラックコーヒーや水を飲んでいる。
クジラの猟に出る際も炭酸飲料は欠かさない。凍らないようにクーラーバッグに入れて置いてあり、誰でも好きなときに好きなように飲めるようになっている。
各自こだわりがあり、コカコーラしか飲まない、ペプシしか飲まない人がいるので、コカコーラ、ペプシ、ルートビアなど、数種類の炭酸飲料が大量に入っている。
一仕事して大汗をかいたあとに飲む炭酸飲料はとても美味い。
氷点下10度近いときでも、きちんとした服を着ていれば、冷たい炭酸飲料も抵抗無く飲める。それどころか、大量の糖分が身体を温めてくれるような気がしないでもない。
炭酸飲料のクーラーバッグの横には、キャンディーバー(スニッカーズなどのチョコレート類)など軽食の入ったバッグが置いてある。
そのキャンディーバーを食べながら、コーラを飲んでいると「自分は一体どれだけ大量の糖分をとっているんだ?」という疑問と罪悪感のような気分が湧き出して来る。そんなときは、軽食のバッグに入っている魔法瓶のブラックコーヒーを飲んで、気分を紛らわせている。
かつて、エスキモーは不飽和脂肪酸の豊富なアザラシの脂を摂るので心臓病のリスクが低い、と言われていた。
今ではアザラシの脂肪を摂る量は減ってきており、若者の中には、アザラシ類を一切食べないものもいる。
食生活がアメリカ化してきた結果、Hの父ちゃんのように血圧を下げる薬が必要な人は多い。糖分の取りすぎで糖尿病予備軍も多いことだろう。
エスキモーに限らず、アメリカの先住民の間では、糖尿病などの成人病が深刻な問題となっている。
1日に3本炭酸飲料を飲めば、砂糖を100グラム以上摂取することになる。その他に甘いチョコや高カロリーの食事を食べ、先祖伝来の食事は減り、さらに野菜はあまり食べない。
身体も悪くなろう。
Hの家族、せめて1日に飲むコーラの量を半分にして欲しいと思うのだ。せっかく水が出てくる冷蔵庫を買ったのだから、水を飲んで欲しい。
「1年間にコーラにいくら使ってる?」
「うーん、わからない。計算したことない」
「コーラを飲むのをやめると、ものすごく大金持ちになれると思うよ」
「ああ、たぶんね」
「ホンダだって1~2台買えるんじゃないの?」
「かもしれないねえ」
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