「2週間くらい前に見た」
「絶対に連れて来るなよ。途中、コツビューあたりでカバンを開けてちゃんと確認しろよな」
そんな会話から数日後、成田を離陸した飛行機は、一路韓国のインチョン空港を目指すのだった。
インチョンで乗り換えて10時間、ようやくシアトルへ到着。入国審査はいつになく長い行列で、30分以上待たされた挙げ句、目的のアンカレジ行きの便には間に合わなくなってしまった。
よくあることなのか、アラスカ航空の窓口では、すぐに次の便に振り替えてもらえ、2時間遅れでアンカレジ到着。
妹が結婚してアンカレジに住んでいるので、彼の旦那に空港まで迎えに来てもらう。妹と言っても、乳も母も違い、全く血の繫がりのない妹だけれど。
妹の家で2泊。ポイントホープから七面鳥を買ってこいとの指令。近所のスーパーで10キロもある巨大な肉のかたまりを買い、その他にも鶏肉やらジャガイモなど買い込む。
朝、早めに空港へと送ってもらい、さっさとチェックイン。食糧を詰め込んだクーラーボックスが重量超過で割増し料金75ドル。
「どうする?」
と言われても。
「払いたくない」と言っても聞いてもらえそうも無かったので、渋々支払う。
チェックインして空港内を歩いていると、花束を持ったおっさんがこっちを向いて、誰かと何かを喋っている。喋りながらもそのおっさん、しきりにこちらを見つめている。誰だろうと思ったら、ポイントホープ在住の友人だった。
「何してるの? 花束なんか持って」
「3週間も家を留守にしてたから、嫁さんにあげるんだよ」
元々良く喋るおっさん。すれ違う人にいちいち声をかけている。
そんな人だから向こうからも声をかけて来る。
「お、その花束はオレにか?」
「あんたはオレの嫁さんには見えないな、残念だが違うねえ」
さて、搭乗の時間になってもなかなか搭乗が始まる様子が無い。そのうちアナウンスがあり、貨物室の扉が折からの大雪のおかげで気密性が無くなったので修理している、とのこと。アラスカのなのに雪に弱いのか。
しばし待たされ、1時間遅れでようやく搭乗したものの、今度は気密性のチェックをするので、一度降りてくれとのこと。
「そんなもん、中でタバコ吸えば一発でわかるだろ? 隙間から煙が漏れ出すから」
そんなことを言いながらも誰もいやな顔をせずに降りていく。
そして30分後、再搭乗。ちょうど昼時。
「やあ、また会えたね」と客の一人。
ユーコン川上流付近の蛇行と三日月湖 |
そんなわけのわからん会話をするこの余裕。誰も怒っていないし、焦っていない。さすがアラスカ。
飛行機は一路、コツビューへ。眼下に見える、未だ凍った川と三日月湖に、いつも通りドキドキしているうちに、コツビュー。
ズドン!と着陸。「ぎゃっ!」と叫ぶおばちゃん。こんな荒い操縦じゃ、機体も痛むよな。
空港でポイントホープ行きの便を確保して、友人に連絡。すぐに迎えに来るとのこと。
チェックインは16時と言っていたから、多少は時間があるので、友人宅で昼飯でも食べて、コーヒーでも飲んで。。。
16時に空港へ行くと、飛行機は既に雲の上。
「あんた15:30に来るベきだったのよ。明日の朝の便予約しとく?」
こんな飛行機に乗る。セスナ社製の正真正銘のセスナ機 |
既に預けてあった荷物。さすが七面鳥だけあって、先にポイントホープへ飛んで行ってしまった。
恥ずかしながらも再び友人を呼び出して、家に戻る。
友人夫妻は、日本からやって来た間抜けを巻込んで、今宵は何をしようかと、楽しそうに企んでいる。スノーゴー(スノーモービル)でキャビンに行こうとか聞こえて来る。
「暖かい上着も手袋もブーツも何も無いよ(先に飛んで行ってしまった)」
「だいじょーぶ。全部あるから」
というわけでスノーモービルに乗って、ノアタック川の河口近くにある彼らの作りかけのキャビンまで、資材を運ぶことに。
走り出して間もなく、オーバーヒートのランプが点灯し始め、警告音も鳴り始める。
キャビンのすぐ裏側。夏は蚊の巣窟になる |
「お前、ゆっくり走りすぎなんだよ。もっとスピード出さないと」
はあ、そう言うものなのか?
スピードを出すと、雪面の凹凸を拾って、人間だけ吹っ飛ばされそうになるけれど、確かにオーバーヒートのランプは消える。
海の上から川の上、そして川岸の丘陵に上がりキャビン到着。 広くて、おまけに冷蔵庫まで用意してある。内装が終わったらテレビも入れるな、これは。
持って来た荷物を下ろし、帰路に付く。
帰りはほぼ全開で(個人の感覚です)。
翌朝。言われた時間の5分程前に空港へ行き、窓口へ。
「今日はポイントホープ行きはまだ出てない?」
「大丈夫、間に合ったよ」
ほっと一息。昨日の快晴とは打って変わって雪が降り続いている。
白波の様に見える部分も薄く凍っている。 |
あとは現地の天候次第。目的地が霧や強風だったら、コツビューまで引き返すこともある。
ポイントホープに近づくにつれ雲が切れ始め、眼下の海氷が見えて来る。水面は見えるが、薄い氷に覆われている。これでは猟はできないだろう。
そして着陸。いつもの町。いつもの風景、知った顔がいくつか見える。
父ちゃんが迎えに来てくれていた。
昨夜、12時半くらいまで猟に出ていたそうで、疲れた顔をしている。
とりあえず父ちゃんの家に行くと、母ちゃんと弟と彼の息子、まいたろーがいた。
これはミキアック |
昼飯にミキアックと「臭いマクタック」を食べて、早速幸せな気分。
これから3ヶ月過ごす、弟の家に行く。
「テレビの調子が悪いんだ。衛星アンテナのケーブルの接続不良らしい。外の接続用のスイッチングボックスじゃないかと思うんだけど」
雪の中、家の裏に回りケーブルの接続の確認。特に問題はなさそう。色々いじっているうちに、テレビは完全に写らなくなる。
「テレビが見られない。どうしよう、信じられん」
落ち込みようが凄まじい。
「ビデオでも見てればよかろ? で、今日はさっさと寝れば良いよ」
先に飛んで来た七面鳥は、すでにポットに入り調理が始まっている。そう、今日は弟の誕生日。
七面鳥、ポテトサラダ、マッシュポテト、トウモロコシ、ケーキ、アップルパイ、フルーツサラダ。食い過ぎた。
部屋で休んでいると誰か来た様子。アンテナの配線をチェックしている。詳しい人を呼んだようだ。しばらくして彼の出した結論は、スイッチングボックス不良。
ならば明日、新しいものを注文しよう、ということになる。テレビの件はとりあえずおしまい。
部屋で荷物を整理していると、弟がやって来た。
「バッグの中にゴキブリ入ってないだろうな」
「大丈夫、アンカレジの妹のところで一度荷物は開けたから」
「OK、それなら安心だ」
ポイントホープにたどり着いたものの、まだ何も始まっていない。
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