ある朝、ポイントホープから電話があった。
「Wのこと、何か聞いたか?」
「いや、何も聞いてないけど」
「昨日の夜、銃で自殺未遂をして病院に運ばれたんだよ」
「え? 本当に?」
「今、アンカレジの病院に入院してる。集中治療室に入っていて、危険な状態らしい」
「どうしたんだろう?」
「よくわからない」
「Wは、今年もオレたちと一緒にクジラの猟に出るんじゃなかったのか?」
彼は昨年から、我々のクルーとして一緒に猟に出ていた。
「うん、そのはずだった。そのはずだったんだよ・・・」
Wに何があったのかはわからない。
数年前までは、アンカレジとポイントホープとの間を往復しながら、あまり良いとは言えない仕事をしていたようだった。
ガールフレンドとの間に子供が出来てからは、ポイントホープに戻り、定職について真面目に働きながら、遅ればせながら猟の手法を色々覚えて始めていた。
昨年は一緒にトンプソン岬まで卵を採りに行き、彼も崖を降りていた。
1週間後、再び連絡があった。
状況はよくわからないようだが、Wは銃で自分の顔を狙ったらしい。
これまでに何度も手術を繰り返し、翌日には、あごの手術が控えているとのこと。
Wにどんな悩みがあったのか、どんな問題があったのか、まったくわからない。だけど、死を選ばなくても良いじゃないか。
昨年、自分がポイントホープを去る日の午前中、Wはわざわざ電話をかけて来て、翌年の再開を約束したのに、集中治療室に入っていたのでは、会えないじゃないか。
また一緒に猟に出られるのを楽しみにしていたのに。また、卵を採りに行こうと思っていたのに。
数年前「ここ数年自殺者がなくて嬉しい」などと話をした数日後に事件があった。死んだ人には申し訳ないが、町の空気がしばらく殺伐としていたような気がする。
小さなエスキモーの町では、時々こう言ったことが起きる。たちが悪いのは、手近に銃がたくさんあるので、簡単に死んでしまえるということ。
絶望的な状況になり、発作的に引き金を引いたら、それでおしまい。
小さなエスキモーの町。
一見平和で、みんな自由に特に悩みもなく生きているようだが、何かしらの闇を抱えている人も多い。
アルコールやクスリに走る人が少なくないのは、抱えている闇から逃れるためだろうか。
お願いだから、引き金を引く前に、誰かに話をして欲しい。みんな親身になって、相談に乗ってくれる。周りにいるのは、そんな人たちばかりなんだから。
W、今年は無理かもしれないけれど、来年は一緒に猟に出られることを祈っている。
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