2013/05/13

ホワイトアウトの日

2013年5月12日
昨日の朝降り始めた湿雪は、気温の低下とともに本格的な雪になり、強い北風に乗って地吹雪の様になっている。

4月下旬、氷に亀裂が生じ開水面が現れた。海は町に数頭のクジラを与えてくれたが、その後吹き続けた南風で水面は再び閉じてしまったので、クジラの猟は一休み。
北風が吹いているが、今のところ町から近い海氷上に水面は開いていない。

エスキモーの間には、各地に「小さい人」や「大きい人」の伝承が残っている。
「大きい人」は、現在のエスキモーがアラスカへ入ってくる以前に、北極圏に住んでいた人たちのことが今に伝わってているのではないか、という説がある。

そして「小さい人」
ポイントホープでは時々「小さい人」に遭遇する人がいるので、実際に「小さい人」はいるのだろう、ということになっている。

10数年前、ホンダで猟に出ていた若者が、深く立ち込めた霧の中でトレイルを見失ってしまった。付近の地形を熟知している若者は、霧さえ出ていなければ決して道に迷うことはないのだが、その日は、自分の周囲がわずかに見渡せる程度の、いつになく濃い霧だった。
無駄に走り回ってもガソリンを消費するだけで、トレイルに戻れる確証はない。どちらへ進んでいいのか、途方にくれている若者のところへ現れたのが「小さい人」だった。
彼はイヌピアック語で若者に話しかけてきた。しかし英語で育ってきた若者には、ほとんど何を言っているのかわからなかった。身振り手振り、知っているイヌピアック語の単語を並べて、状況を説明すると、彼は若者をトレイルまで導いてくれたので、無事に町へと戻ることができた。

近年だと、町のほど近いツンドラで「小さい人」に出会った人もいるという。

「小さい人」を見たことのある人たちの話では、彼らの身長は、普通の人の半分くらい。昔ながらの動物の毛皮で作った服、ズボン、ブーツを身につけていて、イヌピアック語で会話をしているという。

町の言い伝えでは、彼らはツンドラに穴を掘って家にしており、普段から人目につかない様にしている。
猟は弓矢で行う。とても力が強くて、捕まえたカリブーを1人で楽々と担いでいけるほどだという。
霧が立ち込めたり、雪が激しく降ってほとんど周りが見渡せなくなっているホワイトアウトの日には、氷の上に出て、クジラを捕っているのだという。

コーヒーを飲みながら、風に吹き飛ばされていく雪を窓から見ていると、Pが呟いた。
「こんな日は、小さい人たちがクジラの猟に出てるんだろうな」

風と雪は収まる気配がない。

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