2013/05/16

ものぐさな一日

エスキモーは、今の日本人からは考えられない程、簡単に養子のやり取りをしている。お年寄りなのに幼い子供がいたり、両親の顔と全然顔つきの違う子供がいたり。ほとんどが養子として育てられている子供たちだ。

居候先に奥さんの兄Lとその一家が、バローというアメリカ合衆国最北端の町からやってきた。ポイントホープに養子に出している娘が中学校を卒業するので、卒業式を見るために。ちなみに居候先の6歳の長男も、このL一家からやって来ている。

卒業式も無事終了し、L一家は、すぐにバローへ帰るのかと思えば、そうでもなく、この家でただひたすらぐうたら過ごしている。
ただし、子供たちは、両親それぞれの実家へ行って遊んだり、それなりに充実した日々を過ごしている様子。

Lは、腹の周りの脂肪がだらしなく垂れ下がった、典型的なアメリカ人的な巨体を持ち、ソファとトイレを往復しただけで息を切らしている。常にソファを占拠し、日がなテレビを見たりプレーステーション3(PS3)をしたり。
時々、この家の車を借りて出かけるものの、間もなく戻って来て、再びソファを占拠している。
テレビの前に座っている間は、必ず傍らにコーラがある。

午前中、ひっきりなしにLの母親から電話がかかって来る。しかしLは嫁とともに爆睡している。声をかけても「あとでかけ直すと言ってくれ」と言ってまた寝てしまう。

昼過ぎになるとようやく起き出して来て、冷蔵庫からコーラを出し、何か適当に食べ物をあさって、再びソファを占拠してテレビを見始め、夕方までテレビを見続ける。
家主が仕事から戻ると、家主と一緒にPS3。バスケットボールか野球のゲーム。
家主と自分が用事があって出かけている間は、一人でテレビを見ているらしい。我々が戻って、家主の気が向けば再びLとゲーム。
深夜12時過ぎに家主が寝る頃、家主の妹のボーイフレンドのDがやってくる。ちなみにDは、家主の奥さんの姉(故人)の子供、すなわちLはDの叔父になる。
そこからまたPS3を始めるLとD。
Dは無職。Lはポイントホープにいる間はとくにやることはない。二人とも気が済むまでゲームをしているらしい。
Dのガールフレンドは今まさに妊娠中で、もうすぐ彼は父親になる。ガールフレンドは毎日仕事に出て働いている。Dは彼女が留守の間に、彼女の部屋に潜り込んで、彼女のベッドで勝手に寝ているらしい。
こういう何とも言えない風景は、エスキモーの間ではそれほど珍しいことではない。

Lの奥さんは、卒業式の日の夜、自分の実家に戻り、深夜まで飲み続け、酔っぱらって帰って来て、玄関先で寝ていたらしい。
ちなみにこの町での飲酒は違法だ。
他の日も深夜までiPadで映画を見たりゲームをしたり、遅くまで起きている。時々思い出したように、何か調理をしてはいるが。
もちろん、奥さんもそれなりの巨体を持っているが、まだLよりも動きは軽い。

そんな感じで、何しにポイントホープにやって来たのかわからない、だらだらと妹夫婦の実家で過ごす、だらけた夫婦。

こっちの母ちゃん(すなわち家主の母親)に言われたのは
「誰かの家にお世話になる時は、自分がいる間食べる分の食べ物くらいは用意して、仕事はどんどん手伝うこと」
日本人からしても、当たり前のことをさんざん言い聞かされた。
そして、母ちゃんの家にやって来て、泊まって行く人たちは、実際にそのようにしている。
自分のことは半分くらい棚の上に上げておくとしても、自分に出来ることは、なるべく手伝うようにしている。

あるとき、白人の研究者が魚のサンプルを欲しいと、海辺で漁をしている人のところへやって来たことがあったそうだ。
その研究者は、傍らでずっと漁を見続けて、何の手伝いもせず、サンプルの魚を持って行こうした。すると
「何も手伝わないで魚だけ持って行こうなんて、そんな甘い考え通用するわけ無いでしょ?」
と追い返した強者のおばちゃんがいる。
毎年会う、白人の海産哺乳類の研究者は、きちんと解体作業を手伝って、必要なサンプルを貰っていく(恐らく、最初に強者のおばちゃんに色々言われたのだろう)。ついでに肉もわけてもらって、美味しくいただいているらしい。

テレビでしか見られないような、だらしないアメリカ人一家、しかもエスキモーの一家を間近で見ることが出来るなんて、なんて素晴らしいことだろう。

0 件のコメント:

コメントを投稿