2013/06/29

北風

地図を見ればわかる通り、ポイントホープは北極海に突出した岬の先端にあり、三方を海に囲まれている。
東側も海岸沿いにラグーン(潟湖)が発達しているため、かろうじて陸地とつながっているような感じである(言うまでもなく、下の地図は上が北)。


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4月から5月にかけて、まだ海の凍っているこの時期、クジラの猟は町の南側の海面(氷上)が猟場となる(北側は水深が浅いため、クジラはやって来ず、猟に適さないとのこと)。
南の海面は、北風が吹かないと開かないために、ひたすら北風を待ち続ける。

「おまえ、あの歌、歌ってるか?」
「何? 忘れちゃったよ」
「ぶろー、ぶろーぶろーぶろー、ぶろー、のーすうぃんど ぶろー」
我らがキャプテンが調子っぱずれの歌声でオリジナルの「北風を呼ぶ歌」を歌う。
もちろん北風は吹かない。

時々、どんなに強い北風が吹き続けても、海が開かないことがある。そうなると、いつまでたっても猟に出られず、待機の日々が続く。

今年(2013年)も4月上旬に一度開いた開水面は、南風で閉じてしまい、4月下旬まで開くことが無かった。
4月の最後に数日だけ開いた開水面は、3日間で5頭のクジラをポイントホープにもたらしたが、再び南風が吹き始め、またも開水面は閉じてしまった。
 その後、5月下旬まで、どんなに強い北風が吹こうとも氷は開くことはなく、次第に上がる気温とともに、どんどん薄くなっていった。

 5月下旬、ようやく氷が開いた。あまりに薄くて危険かと思われた氷上のトレイルも、水溜りだらけながらも、かろうじて使用できる状態だったため、一部のクルーが出猟した。
6月1日、クジラが捕れた。
しかし、薄い氷に重たいクジラ。そして吹き始めた強い北風。あまりに危険なため、結局クジラのすべてを回収することは出来なかった。

6月に入り、クジラ猟が一段落するとウグルック(アゴヒゲアザラシ)の猟期となる。
天気の良い日には、氷の上でアザラシが昼寝をしている姿を見ることも多くなる。
そして強い風が数日吹き続けると、岸近くに張り付いていた氷が離れ、海岸からボートを出せるようになる(ウグルック猟では北側の水面も利用する)。

「北風の日に獲物はいないんだよ」
そう言い続けて来た。去年までは。

海流の影響もあり、一度砕けた氷は、強い北風が吹こうとも、南の海岸近くに広い海面を作ることがある。
海面の様子を確認に行っていた家主が帰って来た。
「ボート出すぞ。他のボートがウグルック(アゴヒゲアザラシ)」捕ってる」
「北風だぜ?」
「でもウグルックがいるらしい」

我が家の風見(100円の鯉のぼり)
逆さまなのはご愛嬌
そして結果は豊猟。
10日ほどの短い猟期の間に数日出猟したが、ほとんど北風が吹いていた。時々北風が止み無風状態の時もあったが、基本的に北風。

「天気予報によると、明後日から南風だって」
「南風だと何も捕れなかったりしてね」

そして吹き出した南風。あまりに強くて猟には出られない。
そして獲物もいない。
ウグルックの猟期はひとまず終了したようだ。

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