2012/11/22

エスキモーって何?

日本人がエスキモーと言ってまず思い出すのは、アイスクリームだろうか。
長く親しまれて来たこのアイスクリームのブランドは、既になくなってしまっているが。
それはともかく「エスキモーではなくて、イヌイットと呼ばなくちゃいけないんじやないの?」と言う人が多い。
テレビを見ていてると「俺たちエスキモーは…」と言っているのに、字幕や吹き替えは「我々イヌイットは…」となっていることも多い。

イヌイットとは、イヌイット語を喋る「イヌイット語族」の人たちのこと。
イヌイット語を喋る人たちは、グリーンランドからアラスカにかけて生活している。ところがアラスカにはイヌイット語を喋らないエスキモーの種族もあるので、その人たちのことをイヌイットと呼ぶのは、間違えであるというより、非常に失礼である。

エスキモーにイヌイットは含まれているが、イヌイット=エスキモーではないのである。
図にするとこんな感じ

例えばアラスカに住むユピックという人たちはイヌイット語を喋らないので、イヌイットではない。ところが頑なにイヌイットと呼ぶ人が日本にはいる。
どこかで「ユピック・イヌイット」という、わけのわからない書き方をしているのを見たことがある。恐らく「ユピック・エスキモー」と何かに書いてあったのを見て、エスキモーは差別用語だからと、「エスキモー」の部分を何も考えずにイヌイットに変えてしまったのだろう。

「エスキモー」という言葉については、スチュアート ヘンリ(本多 俊和)先生が詳しい解説を書いている。
http://www.campus.ouj.ac.jp/~stew_hon/HTML/inuit_eskimo01.html


要約すると、
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「エスキモー」とは、もともと東カナダのラブラドール半島に分布するモンタニェー語に由来する言葉であり、モンタニェー語からラブラドール沿岸にきていたバスク人の漁師たちを通じて、1625年ごろにヨーロッパに伝わったと思われる。
当初、フランス語の文献や地図では「エスキモー」はミクマックという人々と、ツンドラ地帯で生活しているエスキモーを合わせて指す呼称として使われるようになり、18世紀に入るとこの呼称はツンドラ地帯のエスキモーだけを意味するように変化していった。この当時「エスキモー」という言葉には軽蔑的な意味合いは含まれていなかった。
カナダ東部のクリー族(インディアンの一種族)の言葉に「エスキモー」には「生肉を食らう輩」という意味があるとされているが、そうした解釈には根拠がないようである。
しかし、根拠がないまま「エスキモー」は「生肉を喰らう輩」という意味で19世紀になって欧米の文献に登場するようになった。
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仮にエスキモーが「生肉を喰らう輩」を意味したとしても、そもそも生肉を食うことが野蛮なのか、という個人的な疑問がある。
日本人ほど生肉を食べる民族はいないのではないかと思うこともしばし。たとえば、魚は生で食ベることが非常に多い。時には生きたまま丸呑みすることもある。牛馬も生で食べる。卵を生のまま食べるのは、世界的には少数らしい。
日本人は野蛮なのか? きれいに切ってあるからあれは生ではない料理だ、と言い張るのだろうか。

アラスカのエスキモーの人たちは、自分たちのことをイヌイットと呼ぶことはない。公式文書でも「エスキモー」となっている。
カナダのイヌイットの集落で、伝統的な犬ぞりに乗っていた活動している日本人の友人は、地元のお年寄りに
「お前は、エスキモーよりもエスキモーみたいだな」
と言われたそうだ。
恐らく、エスキモーにとって「エスキモー」という言葉は、誇りにこそなれど、差別用語という意識はないのではなかろうか(カナダについては知識がないので完全な憶測です)。

人類はアフリカで生まれ、延々と旅を続け、ユーラシア大陸(シベリア)とアメリカ大陸(アラスカ)が陸続きだった5万年ほど前の氷河期に、初めてアメリカ大陸に足を踏み入れた(その後、温暖化が進むとともに海面が上昇し、1万3000年ほど前にシベリアとアラスカの間にベーリング海峡が生じた)。
ちなみに海面上昇は6000年ほど前がピークで、日本では「縄文海進」として知られており、日本付近では現在より海面は1〜2m高かったと言われている。

アメリカ大陸へ渡った人たちのうち、初期に渡った人たちは、そのまま南に進み、最終的には南アメリカへと移動して行った。
6000年ほど前には、現在のエスキモーの祖先と言われる人々が住み、4000年ほど前までには、アラスカからグリーンランドにかけて広がって行った。

シベリアから直接南下したり、一度南下してから北上した人たちが、我々日本人の先祖だろう。
エスキモーも、日本人も同じモンゴロイドで、幼い頃には、エスキモーにも蒙古斑のある子もいる。

息子「ねえ、なんでぼくに蒙古斑(モンゴリアン・スポット)があるの?」
父「お前が母ちゃんのお腹の中にいるとき、母ちゃんがモンゴリアン・ビーフ
(アメリカでよく食べられる中華風の炒め物)をたくさん食べてたからだよ」

  参考文献「図説 エスキモーの民族誌(アーネスト・S・バーチJr.他)」原書房

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