2012/11/06

寒いから...

エスキモーは寒さにとても強いか、というとそんなことはないと思う。東京に住んでいる日本人よりも寒さに強いとは思うが。
ただし、東京の冬の家は、彼らにとっては寒すぎるだろう。現在、エスキモーの住んでいる家は、暖房がしっかり効いていて、冬でも短パンTシャツでいられるくらいなのだから。
昔ながらの氷の家(本当は雪の家)「イグルー」はカナダの一部のイヌイットの冬の家(もともとイグルーとは「家」の意味)であり、今では住んでいる人はいない。

エスキモーの住んでいる北極地方は、一年中、雪と氷に覆われているわけではなく、かろうじて四季が存在している。
ポイントホープの場合、陽射しが強くなる5月中旬(人々は春と呼んでいる)を過ぎると、快晴で風のない、照り返しの強い氷の上では、暑くてTシャツでいられることもあるくらいだが、気温は氷点下だったりする。ちょうど日本の春先のスキー場と同じような感じだろうか。
6月下旬、短い夏の間には、海の氷もツンドラの雪も溶け、ツンドラは一面お花畑。晴れた日には日中の気温は20度に達することもある。信じられないくらいの蚊が発生するのもこの頃。

もし、エスキモーが寒さに鈍感で、寒さをそれほど感じないのだったら、あんな分厚い毛皮の服は発達しなかったろうし、「寒い」という単語も存在しなかったろう。
エスキモー語で寒いは「アラパー」。寒さを強調したければ「アラッパー」。
語感が「アジャパー(伴淳三郎の往年のギャグ、古いなぁ)」に似てるな、とすぐに覚えたエスキモー語のひとつ。

ポイントホープの一番寒い時期は2月ころ。氷点下20度以下、時には氷点下30度を下回ることもあるそうだ。北極圏とはいえ海岸沿いなので、内陸と比べるとかなり暖かい。

この時期、かつては、新鮮な食糧を得るために氷の上でアザラシ猟などをしていたが、今はスーパーへ行けば簡単に食糧が手に入るので、冬の間、強いて猟に出なくても生きていける。
しかし、オオカミやクズリなど、毛皮を取るための獲物は、冬毛の方が質がよいため、厳寒の中、獲物を探してスノーマシン(スノーモービル)で雪のツンドラへと繰り出して行く人もいる。

さて。
厳寒期のポイントホープには行ったことがないので、実際にどれほどの寒さなのかはよくわからない。しかし時々、この寒い時期、ポイントホープの友人Hと電話で話をすることがある。
「Wがこの間、川の方でオオカミ捕ってきたよ。ものすごく寒かったって言ってたよ」
「川」とは、ポイントホープからスノーマシンで2時間はかかる場所。
「Jは山の方行ってクズリ捕ってきたらしいよ」
「山の方」というのもやはり町から2時間はかかる場所。
そしてこちらから、いつも同じことを聞くのである。
「で、H、お前は何か捕ったの?」
すると答えはいつも同じ
「猟に出るには寒すぎる」

この前の冬は、あまりに寒いのでスノーマシンを物置から出すこともなく、仕事へ行くのにも、奥さんのトラックに乗せて行ってもらっていたという。
「寒がりのエスキモーの友だちがいるって日本人に言ったら、えらく驚いてたぜ、エスキモーは寒さなんか感じないんじゃないかって」
「そんなわけないって、寒いもんは寒いよ。ついでに、コカコーラとマクドナルドが好きなエスキモーがいるって言ったらよかったのに」
「そりゃもちろん、言ったよ」
お互い大笑い。

「最近、町の周りで白いキツネをよく見かけるよ」
「それ、捕まえりゃいいじゃん。毛皮を色々使えるんじゃない? 売れるだろうし」
「うーん、寒いからなぁ」

余談だが、恐らく、世界で一番寒さに強かった民族は、絶滅した南米パタゴニアのヤマナ族ではないだろうか。南極に近いあの土地で、ほぼ裸で暮らし、裸のまま、冷たい海に潜って漁をしていたという。
絶滅の一員がスペイン人に服を着せられたことだとかなんだとか。

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